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伊勢原雛子の瑠璃色アクアリウム - 10

 Falling Angel.

 空から天使が降ってきた。

 どうしようもない僕に天使が降りてきた。


 いや待て?

 だって僕は神社でブッ倒れたはずだぞ?

 そんなのおかしい、文脈がおかしい。

 「もう疲れたよパトラッシュ(☆3 アヴェンジャー)」とか自分をネロに擬えてしまったから?

 その延長線上の幻覚だろうか?

 それとも、☆4ランサーのヴァルキュリアちゃん(※恒常の数少ない当たりカード)が欲しすぎたから?


 いずれにせよ僕はもうダメっぽい。

 こんなにも天使らしい天使が、現実に見えてしまうなんて。

 神社に天使。

 変な取り合わせだけど、君の背中には羽根がある。

 純白の白いドレスをまとった姿は、「天使」の他に形容のしようがない。

 というか――【僕は君を知っている】。

 遠い遠い昔、まだ僕が物心付く前の……初めて好きになった異性、

 初恋の人に似ている。

 そんな気がする……名前も思い出せないけれど。


 何が起こったのか、全く理解できないまま呆けた僕に、

「どうして、そんな顔してるの?」

 天使は優しく尋ねてきた。

「それは……」

 隠し事なんて、しなくていいのよ?

 大いなる「赦し」の光――菩薩の光背の如く輝きながら降ってくる。

 何も恐れるものはないのよ、と僕をなだめながら。


「何度引いても(金枠確定の)ベルが鳴らなくて……」


 でもそれは僕が悪い。

 限定PUまで絶対に回さないぞ、と心に誓ったのに――我慢できなかった僕が悪い。

 これは天罰だ。

 ガチャ石、在庫ゼロの画面を掲げて罰を乞う。

 君が神なら、相応の罰を与えてくれるよね?


 なのに天使(彼女)は、

「自分を責めないで――あなたは悪くない」

 思いがけない答えを僕へ返してきた。

「縁は神様が結んでくださるものよ――乱数じゃない」

「天使さま……」

 爆死の落ち度は僕にない――――そう天使は赦し説く。祝福の鐘が如き、妙なる声(音色)で。


「心が弱ってるのね」

 自暴自棄の雨でズブ濡れの僕を、天使が優しく抱きしめる。

「弱った心は、女の子にしか治せないの」

 胸に顔を埋めれば、極上の反発力で僕を包む――魔法の治癒。

 このまま僕は天国へ導かれてしまうのか? 大聖堂で命尽きたネロの如く。

(それもいいか……)

 ハズレカード(コモンレア)で埋め尽くされた、この世界で腐りゆくよりは。





「――!!!!」

 よほど旅慣れてる人でもない限り、見慣れぬ天井は心臓に悪い。

「ここは?」

 どうしようもないガチャ大爆死の後、神社で行き倒れ……その後の記憶がない。

(確か、神々しい天使に抱き留められて……)

 いや、

 あれは妄想だろう。

 瀕死の脳が、死の苦痛を和らげるために作り出した幻影だ。

 なにより神社ってのがおかしい。

 この世の天使は美術館か教会ぐらいでしか、お目にかかることなど……

「天使……」

 ベッドから身を起こすと、壁に色褪せたポスターの天使が微笑んでる。

 キャラデザインが二昔ぐらい古い、アニメ調の天使。

「『嗚呼、天使さま』…………?」

 昔、見たことがあるような、ないような……寝ぼけた頭では思い出せない。

 ヲタクならば、古いアニメも一発で脳内データベースから引き出せるかもしれないけど、

 生憎、僕はヲタクじゃない。それと似て非なる音叉の魔術師だ。


「……ん?」


 それよりも……改めて部屋を見回せば、フィギュア、アニメ情報誌、ヲタグッズが所狭しと……

 ところが、鏡台にはメイク道具と女物の服、脱ぎっぱなしの下着まで……

「なんだこの部屋?」

 変だ。

 とてつもなく違和感がある。

 いまどき、真っ当な社会人とヲタ趣味を両立する女性なんて、珍しくない。

 珍しくもないけれど……

 そういう女子なら、刀とか松とか水泳とかイケメンアイドルのグッズが飾ってあるはず。

 なのに、この部屋は、どう見ても男性向けの嗜好に偏っている……

 なんだなんだ?

 僕は女装趣味の男にでも拾われたんだろうか?



 お尻辺りに危険を感じつつ、扉を開けると……ここは普通の一軒家らしい。

 廊下に沿って、いくつかの扉と、下へ続く階段が。

「……」

 注意深く耳を澄ませば、階下から声が聞こえる……女性の声が。


 ―――― ビリビリビリビリ!! ――――


「え?」

 すると突然、ポケットの音叉が震えた!

 種村未沙の音域に絞り込んでチューニングした奴が!

 プロの声優を何十人と試しても、誰も響かせることが出来なかった音叉が!

 てことは?

(…………この家に【適格者】が居る!)

 種村未沙の周波数を出せる人(極レアな才能)が!


 禍福は糾える縄の如し。

 つまり、僕は昨日の大爆死と引き換えに、この人材(超レア)を引く運命を掴んだ、ってこと?

 運命の帳尻が合った = 確率が収束した?

 【徳】を管理する神様は、ちゃんと僕の天秤を釣り合わせてくれた?

(……のか?)

 俄には信じられない……


(だが、しかし!)


 トントン……

 声の主が階段を登ってくる足音……

(こうなったら【彼女】をスカウトしなくちゃ!)

 どこの誰かは知らないけれど『君も今日から声優です!』を呑んでもらわないと!

 無理があろうがなかろうが、こんなチャンスは二度とは来ない!

 トントン……

(南無三!)

 成り行き任せの幸運だったとしても、これに賭けるしかない!


「へ?」

 その子の顔を見て――――目を疑った。


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