伊勢原雛子の瑠璃色アクアリウム - 宮居志帆の場合
**** 宮居志帆の場合 ****
「宮居! まだ見つからんのか!」
再び会議室へと召喚された私は、幹部たちの厳しい叱責の中に居た。
それもそのはず、
日に日に下がっていく売上、落ちていくアクティヴユーザー数。
統計値は残酷なまでに、現実を映す鏡だ。
種村未沙の緊急入院以来、ぱったりと止まってしまった情報発信の結果は一目瞭然だった。
さしものGHPも、緩慢なる死に向かって「終わりの始まり」を歩み始めた――――誰の眼にもそう映る、危機的状況だ。
理由は音叉にある。
確かに彼(高橋くん)は特別な音叉を完成させた。
種村未沙の琴線周波数のみ反応する、種村未沙型 琴線音叉を。
ところが、鳴らない。
多少なりとも声が似ている役者を、片っ端から試しても……音叉は静かに佇んだまま。
何十人とオーディションを繰り返しても音叉は、
歌を忘れた金糸雀のように、うんともすんとも言わないのだ。
おかしい。
いくら突貫作業とはいえ、彼の作った音叉が欠陥品であるはずなどないのに……
あんなに精魂込めて打ち据えた逸品なのに。
とはいえ、反応を見せないのも厳然たる事実。
「だから、あんな小僧に任せるべきではなかったんだよ!」
「今からでも、業界に顔が利く重鎮を招聘しては?」
「どうなんだ宮居!」
このお歴々は、恥というものを知らないのだろうか?
あの対策会議では、臆面もなく高橋椋丞(彼)一人に責任を被せようとしたくせに。
「いいえ! 高橋椋丞(彼)なら、必ずやり遂げますから!」
もう彼を守れるのは私しかいない。
「彼を――信じてあげて下さい!」
もうボーナス査定も左遷も怖くない。
この宮居志帆が、私が高橋椋丞(彼)を守るしか!




