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伊勢原雛子の瑠璃色アクアリウム - 5

 多少(?)の計算違いがありながらも、無理やり随伴者たちを首尾よく振り切った椋丞、

 いざ、本願を果たさん! と旅館を飛び出したら……そこには!


 一難去ってまた一難?

 偶然? 必然? それとも彼をハメる悪の魔の手? 

 思いがけず「あの子」と鉢合わせですか?

 え?

 どうして?

 こんなタイミングで?


 ドタバタ出雲旅行編 with 声優さん、急展開です!

「待って、高橋くん!」


 いるはずのない人が――――正面玄関で仁王立ちしていた。

 絶対に通すまい、と修羅の表情を浮かべた宮居さんが僕の前に。


「な、何のつもりですか?」

 主役の行く先々に現れる、お邪魔虫キャラですか?

 タツノコプロの子供向けアニメでもあるまいし!

「プライベートは契約外ですよ! 宮居さん!」

 謂れのない足止めには間貫一キックも辞さず!

 不退転の覚悟で彼女(宮居さん)を振り切ろうとしたら――


「種村未沙が――――――――倒れたわ」


 すれ違い際に、宮居さん…………とんでもないことを告げてきた。

「えっ?」

 種村未沙といえば万人が認める超人気声優、

 アニメでもゲームでも主役を幾つも掛け持ちするスーパーヒロイン声優だよ。

 仮にドクターストップともなれば、その影響は計り知れない。

「大事件じゃないですか!」

 むしろ、宮居さんみたいな立場の人こそ天手古舞のはずだ。

 人気タレントが開けた大穴は、現場の余裕を全て吹き飛ばすインパクトがある。

 のうのうと地方で油を売ってる場合じゃない!

「大ピンチよ……未沙ちゃんは『GHPガン・ハイドレード・パレード』の顔だもの」

 それは『鬼界カルデラ ガールズコレクション』と並ぶ、製作委員会の稼ぎ頭ツートップ、

 その主役が倒れたのなら、

「すぐに代わりが必要なのよ!」

 ですよね。


 でも! ――種村未沙は『鬼界カルデラ』に関わってない――


 つまり僕(部外者)には【関係ない大事件】だ。

 なのに何故、わざわざ部外者(僕)を呼び止めるのか?


「高橋くん! 君も後任選びに参加して!」

 そうなるよね。

 僕は何故か「買い被られている」、製作委員会から。

 そして敢えて、その過大評価を利用して、音響監督を請けたのだから。

 錦松雪姫という極上の紐巫女を助けるために。


 だけど……


「嫌です」


 そんなのは製作委員会そっちの事情だ。

 僕には僕の【差し迫った事情】がある。

 声優さんとの隠密温泉旅行よりも、製作委員会の緊急オファーよりも優先すべき事情が。

 その【特別な夜】が、今まさに――目と鼻の先で執り行われているんだから!


「……これでも?」

 宮居さんの手には拡声器、

 聴こえるか聴こえないかの音量で【あの音】が鳴る。

 【魔術師殺しの毒電波発生装置】まで持ち出して、僕に服従を迫るのか?

 汚い!

 製作委員会、汚い!


 ところが……

「えっ?」

 宮居さんは装置(僕を一方的に痛めつける機械)を放り捨て、

「聞いて、高橋くん!」

 悲痛な叫びで訴える。

「皆の愛してくれたGHPガン・ハイドレード・パレードが死の淵に瀕してるの!」

 あたかも世界の終わりを憂うかのような、慟哭の叫びで。

「ユーザーにとってゲームは、「たかがゲーム」じゃないの! アクティヴなプレイヤーが共に育んできた掛け替えのない場所なの!」

「えっ?」


 会社の経営が傾くから、

 決算の悪化は組織人としての評価が下がるから、

 ネットゲームビジネスを営む会社としての。体面に関わるから、


「その大切な場所が、今まさに、壊れようとしている!」


 そういう論旨(会社都合)を以て、宮居さんは僕を納得に掛かると思ってたのに。


「助けて高橋くん! GHPを救って!」


 いつもみたいに「金は払うから、やれ」と高圧的に僕を強制するんじゃなくて、

 無様に哀願を晒している。

 仕事のデキる、プライドの塊みたいな女性が、地べたへと這いつくばらんばかりに。


 どうして?

 やろうと思えば宮居さんは、毒電波発生装置で僕を強いることも出来たはず、

 弱った僕をハイエースで難なく身柄確保出来たはず、

 なのに……


「お願い高橋くん!」


 経営判断とか出世欲とか、そんなものからは掛け離れた、

 彼女自身の理想や責任感や譲れない価値観を拠り所にして、助けを乞うている。

 『ユーザーの夢を壊したくない』、その一念を以って僕に助けを。


「君にしか出来ないことなの!」


 僕は、どうしたらいい?

 どうしたら?


「高橋くん!」


 誠心誠意の叫びに、嘘はない。

 取り繕った演技の欺瞞ぎまんうかがえない。

 心の底から彼女(宮居さん)は、僕に助けを求めている…………ように、見える。

(宮居さん……)


 ならば、


 それならば、


「――――分かりました」


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