表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/53

伊勢原雛子の瑠璃色アクアリウム - 2

「このままでは、悪の製作委員会から奴隷契約を結ばされてしまう!!!!」


 迫りくる危機への対抗策を採るべく、不眠不休で音叉制作に勤しんでいた椋丞だったが……

「今週の収録は延期です」

 の連絡を受け、拍子抜け。


 いきなり訪れた「休日」を如何に過ごすか?


 ローマならぬ、出雲の休日。

 勝手気ままな一人旅……と、なるのかならないのか……

「……はっ?」


 今、背後に、くのいちの気配……

 長押なげしと天井の間で、スパイダーマン的に張り付く曲者の気配がした、ような……?

 でも……何度振り返ってみても、対魔忍的な現代忍者など影も形もない。

「まさか……そんなの、いるわけないよね?」




「着いたら何、食べる?」

 いたー!

「どうして由綺佳さんが僕の隣に?」

 羽田発・島根行き、とかいうニッチな便に何故?

 旅に出るとか誰にも言ってないのに!


 明らかに都内を散策する格好とは隔絶した、旅装の佇まいの由綺佳さん、

 少しだけ豪華な余所行きコートと、洒落たブーツとサングラス。

 完璧に旅を満喫する装い(フォーム)じゃないですか!


「飛行機なう、っと」

 パシャリ!

 僕の質問などガン無視で、機内でインスタ素材の自撮りを始める由綺佳さん!

「アッー! その角度はマズいですよ、由綺佳さん!」

 反射写り込みと見切れ男は絶対NGです、アイドルには!

「由綺佳さんも一応、アイドル声優の端くれで……」

「端くれとか言うなー!」

 いたいいたい猫パンチいたい。

「これでも私、武道館にもさいたまスーパーアリーナにも出たし!」

 ええ、ゲームでしか出番がないマイナーキャラでしたがね……

「ほれほれ」

 ドヤ顔で由綺佳さん、ステージ衣装を着たキャストの集合写真を見せつけてくる。

 高速スワイプで何枚も何枚も何枚も携帯のメモリに残された分を全部見せる勢いで。

「今度、着てあげよっか? プライベートで」

 アイドルマエストロのキャストは、ガチのティーンエイジャーも含まれる。

 含まれているはずなのに、負けてない由綺佳さん。

 悔しいけれど、誰よりもミニスカ衣装が似合ってるのは彼女、

 僕の隣でドヤー、と携帯を見せつけてくる藤村由綺佳、その人なのだ。

 コケティッシュな表情を浮かべ、衣装の愛らしさを最も表現できている、由綺佳さんが一番!

(可愛い……です……)

 おかしい。

 彼女のキャリアから逆算すると(推定)アラウンドxx歳なのに……

 魔女か? 由綺佳さんは魔女なのか?

 年齢を不詳にする魔法使いか?

 これが声優さん特有の時空間歪曲能力なのか?


「あ、アイドルなら尚更、プライベートショットには気をつけないと!」

 溺れてしまいそうな自分を隠蔽するべく、ワザと上から目線で彼女を諭す。

「流出されて困るような写真は撮っちゃダメ、って学校で教わりませんでした? あ~? 由綺佳さん世代はスマホ普及前だから……」

「あったわよ!」

 ぽかぽかぽか。

「ほんと失礼、年下のくせに」

 かわいい……年上のくせに。

 憎まれ口が聴きたくて、ついつい虐めたくなる可愛らしさ。

 巫女の資質は劣っても、愛され女子の才能なら負けてない。



 空港からリムジンバスで目的の参詣地へ。

 「迷子になると困るから」と称し、僕の手を握りっぱなしの由綺佳さん、

「さすが有名観光地ー!」

 賑わう門前町を舞台に縦横無尽、まるで少女みたい目を輝かせながら、

「撮って撮って♪」

 撮影スポットを見つけるたび、僕にせがんでくる。

 これじゃまるで、

(ほんとに恋人と旅行しているみたいじゃないか……)

 普段と違う旅の装いが、僕の心臓を高鳴らす。

 偽装の恋人関係とはいえど、むず痒い優越感で頬が緩んでしまいそうにな…………


 いや!


 いいか椋丞(自分)――由綺佳さんの観光気分に流されるな。

 僕の目的は「年上声優さんとのウキウキお忍び旅行」じゃないだろ?

 今度こそ【特別な夜】を遂げるための旅路なのだから。

 神が与え給うたこの好機――インスタントな恋人ごっこで潰してなるものか!

 忘れるな、本分!


「わ!」

 いかにも参詣地らしい風雅な甘味処を見つけた由綺佳さん、

「ねぇ、椋丞く~ん、あそこ入ろー」

 当然僕に選択権などあろうはずもなく、即入店。

「は~い、撮って撮って♪」

 インスタ映え間違いなしの豪奢な和風パフェに顔を寄せ、由綺佳さん、僕を促す。


 ま、僕が撮っている分には、見切れる危険性はないワケだから。安全安全。

 あとはグラスや鏡の反射に気をつけながら撮れば(インスタでもツイッターでも)大丈夫……


「ねぇ椋丞くん」

「なんですミスインスタグラマー?」

「……そろそろ気づくかな?」

「気づく?」

 誰が?

 何を?

「『この写真、誰が撮ってるんだ?』って」

「あーっ!」




 ところで……この写真、撮ってくれてるの……誰だと思う?


 プライベートの旅行で~、私の写真を~撮ってくれる人……


 ここでみんなに、『大切なお知らせ』……


 実は、この人でした!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ