藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 7
突然の恋愛原子核、ハーレムコアと成り果ててしまった、我らが主人公、高橋椋丞くん。
あわや圧死!?
の修羅場から救ってくれたのは、僕のサラ・コナー。
T-1000並みの執拗さで追ってくる女子たちを交わしながら、
謎の淫獣みたいな誘い文句を掛けてくる。
なに?
なんなの?
どこまで信じていいの? この可愛らしい人を?
在校生だけが知っているエスケープロードを駆け抜け、女子更衣室棟へ到達。
「おまたー♪」
制服から私服へ着替えた藤村由綺佳さん、見違えた。
カジュアルな中にも楚々とした大人の装い。背伸びしたティーンじゃ醸せない、自然体の女性らしさが随所に垣間見える。メイクがメイクとして最も女性を引き立てる世代の艶っぽさ。
「今日から君とあたしは、ビジネスの恋人」
出会ったばかりなのに幼馴染みたいな気安さで僕へ囁く。ナチュラルに腕を絡めながら。
馴れ馴れしいくらいのフランクさがこそばゆい、『身近な異性』のロールモデル。
これはお姉さん――男の子なら誰もが憧れる理想のお姉さん像だ!
「自由のために、少しの束縛を強いる」
(さすがはプロの役者さん……と言うべきなの?)
そんな「演技」も、お手の物?
早速、腕試しとばかりに、お誂え向きのスポットへ二人で繰り出す。
向かうは駅前再開発ビルの最上階。
市民全員に等しく解放された公共展望スペースも、日暮れ時は学生カップルの独壇場。
良い子たちは帰途に、お母さんたちは買い物から夕飯の支度、社畜の皆さんは正規就業時間のラストスパートで忙しい刻限、
リア充学生だけが恋人たちの空間を占拠する。
その純度は他時間帯の追随を許さず……ソロプレイヤーが挑めば最後、恋愛毒素で窒息死する。
死にたくなければパートナー帯同は不可欠。それでようやく人権を得られる。
そう聞いてた。
僕だって、実際に足を踏み入れたのは初めてだ。
だけど生きている。市内有数の恋愛魔境を生き延びている。
「へぇ……君、初めてなんだ?」
それも全てはパートナー(藤村由綺佳さん)のお陰。
超・若葉マークの僕でも「彼氏彼女の作法」がこなせている。常連の恋愛達人勢と並んでも。
大人女子のリード力、すごい……
「クリエーターに経験は必須じゃない。だけど、想像力を補う味方になってくれるわ。何事も経験しておいて損はない。クリエーター(君)みたいな立場なら」
「僕はクリエーターじゃないですよ。しがない修理屋で……」
「う☆そ」
僕の頭を抱えるように引き寄せた藤村さん、
「分かってるんでしょ?」
あやうく唇が触れそうな距離で、呟く。
「【 あの夜 】から世界は変わったんだ、って」
コツン。
軽く額をぶつけてから、頬と頬が擦れ合う恋人のハグ。
「ね? あたしたち本当に付き合っちゃおうか?」
必然、耳と触れ合う唇が、僕を犯す。
溶ける。
僕は、溶けてしまう……自我が溶解する。
陽光を浴びた吸血鬼みたい、細胞の一つ一つが灰になる。
ここぞとばかりに魔法の声(商売道具)を駆使してくるなんて――卑怯です藤村さん。
音叉の魔術師 [ strings polygrapher ] には致命傷だ。
琴線を真綿で締められた僕は、哀れにも白旗を掲げ……
…………とは問屋が卸さなかった。
「あなたたち、嘘の恋人同士ね!」
真っ赤な西陽を背にした【 別の彼女 】が僕らを断罪した!
「速攻、バレた!」
完璧な偽装カップルだと安堵してたのに……見る人が見れば一発ですか?
「違うわ椋丞くん(ダーリン)」
偽装恋人の演技プランを解いて、藤村さんは苦々しく呟いた。
「こいつも商売敵よ」




