藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 6
音叉の魔術師的には、諸問題を抱えつつも……
前途ある女の子を支えてあげよう、と決意し、前を向く我らが主人公、高橋椋丞。
ところが今度は、自分自身が、抜き差しならない状況へと追い込まれる。
> 突然の死 < ならぬ > 突然のモテ期到来 < に、学園生活が瓦解の危機!?
昨日まで『エロ動画先生!』と蔑まれていた僕が、モテモテですか?
いやいや、そんなのライトノベルにしてもご都合が過ぎます。
ひどい話です!
……ええ、そうです。
美味しい話には裏があるのです、この世は全て、押しなべて。
そこで突如、
「――――はぐっ!」
ベルトを思いっ切り引っ張られた! 背中の方から!
水夫を水底へ引き込むローレライの勢いで!
「ぐえー!」
痛い痛い痛い! 「人間ところてん」の気分で抜けたスペースは、換気用の小窓。
足元に設置されてるクソ狭い窓!
そこを無理矢理、僕は体育館の内側へと引き込まれた!
這々の体で脱出した、体育館。
僕を引っ張ってくれた彼女に導かれるがまま、校舎反対側の階段踊り場まで駆け抜けた。
「危ないとこだったわね」
「あなたは一体?」
「通りすがりのJK(女子高生)よ」
嘘だ。
(だって、制服が……)
驚くほど似合っていない。
制服の賞味期限はギリギリ十代、それを越えたら濃密な風俗臭が漂ってしまう。
なのに彼女は悪びれもせず、
「あなたを助けに来たの、ボーダーブレイク」
と告げた。
「もしかしてサラ・コナー的な奴ですか? 僕、襲われちゃうんですか、鋼鉄のアサシンに?」
「似たようなものよ」
「こっち?」
「声が聴こえたような……」
……大きいんだよ僕のサラ・コナー。
何が大きいって、とにかく声がデカいの。
とても「逃亡者」を匿う人の音量じゃない。
一発でターミネーターに見つかってしまう、そんなにも響く声では。
(……お願いですから、喋んないでくれますか?)
追跡者の気配を感じ取った僕は、慌てて彼女へ胴タックル。階段下の物置スペースへ押し倒す。
死角にしては隠蔽が甘いけど、運否天賦で息を潜める。
「(シーッ!)」
見つかったら最後、哨戒兵に発見されたソリッドスネークみたいな羽目に陥るが……
「…………気のせいかな?」
(――天ハ我々ニ味方セリ!)
やがて、不穏な気配は遠くなっていく。
これも日頃の行いの賜物だ。徳を積んでいるからこそ得られる幸運だ。おそらく。たぶん。
(そんな気がする!)
仮に(不可視ステータスである)『徳』ポイントが消費されたとしても、ここは使っていいシチュエーションだ。それに値する窮地だったよ、充分に。
「ぷは!」
「あああああああ、すいません!」
緊急事の不可抗力とはいえ、僕は彼女を押し倒してしまってた。あまつさえ、掌で口を塞いで。
「あたしは藤村由綺佳――はじめましてミスター高橋くん」
改めて視ると…………軽く自分の目を疑うほど、彼女は美しかった。
どこぞの女子アナがJKコスプレでお忍び登校してきたのか?
とか説明されても納得してしまいそうなほどの美人さんで……
「藤村由綺佳。アーキテクトプロ所属よ」
ところが、彼女の表明した所属先は、テレビ局でも、もちろん対スカイネットの抵抗組織でもなく。
「アーキテクトプロ……」
ヲタクなら誰でも知っている中堅声優事務所の名だった。
なんだ彼女も声優さんか……道理で声がデカいはずだ。
「そ、同業者」
「いや、僕は同業者になった覚えは……」
「そして…………同業者は藤村由綺佳だけじゃない」
訂正を軽くスルーして藤村さん、
「ねぇミスター高橋くん。体育館裏の子たちの中に顔見知り、いた?」
核心的な質問を投げてくる。
「顔見知りですか……?」
校内に於いて、僕と同級生女子は没交渉。『エロ動画先生』の風評被害も相まって、接点など無いに等しいが……
「知らない子ですね?」
さすがに顔くらいは分かるよ。名前は知らなくとも。可愛い子なら、特に。
そこまでウチはマンモス校じゃない。見覚えくらいはあるはず、普通に学園生活を送ってれば。
なのに全く見覚えがない……
「つまり――」
「……つまり?」
「あの子たちは【偽】生徒よ!」
「えええええええ!」
何ですその無茶な展開?
「――――ボーダーブレイクくん、あなたは狙われている!」
ビシリッ!
本人自身がニセJK、藤村由綺佳さん、アニメヒロインのバンクばりに見得を切った!
「命を、ですか?」
「いいえ貞操を」
…………言ってることが突飛すぎませんか、藤村さん?
だけど藤村さんは、真面目も真面目、大真面目。
「次代の天才、ボーダーブレイクRYO-SUKEの女になりたいの、あの子(恋愛アサシン)たちは」
と真顔で言い切った。
「そんな……」
買い被りもいいところだよ。
そもそも僕は音響監督に腰を据えるつもりはない。
だいたい音叉の魔術師にとって、スタジオは魂を抜き取られる地獄、わざわざ寿命を縮めに行くようなものだ。ある意味、声優さんは僕にとってサキュバスの群れ。収録とは、命尽き果てるまで精を吸いつくされるサバトに等しい!
「既成事実というコネクションを築けるのなら、あの子たち、形振り構わない」
「いくらなんでも……話を盛ってますよね、藤村さん?」
「業界の競争率を甘く見ないで」
藤村さんは即座に問を斬り捨てる。
「世に出るためなら、どんなことだってやりかねないんだから、声優志望の子たちとか」
そういうもんなんですか? ……と言いかけて止めた。
だって実例に接したばかりじゃないか。
飾りじゃない本気の涙を見せつけられたばかりだ、僕は。あの子(錦松さん)から。僕らとは違う世界の「 リアリズム 」を。若くして別次元の覚悟を求められる生き方を。
「だったら僕は……どうしたらいいんですか?」
学園内ですら安全地帯に成り得ないとか……ほんと勘弁して下さい!
「君はVIPなの、ミスター高橋くん。神聖モテモテ王国の国王なのよ、同業者(私たち)にとっては」
自分じゃ、まっっっっったく自覚がありませんけど。
「要人ならば要人らしい対処の仕方、あるでしょ?」
「と言われましても……」
普通の学生が知っていたら逆におかしいです、要人御用達の不審者対処法とか。
「だから、あたしと契約してよ」




