藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 5
と、いう感じで第二章、導入部はここまで。
こっから本題です。
なんだかんだ紆余曲折ありつつも、収まるべきところに収まった?
我らが主人公、高橋椋丞くんと錦松雪姫ちゃんのボイスアクトレスロードは順風満帆?
……いやいや。
そんな簡単に収まっては困るんですよ、困る人が居るんです。作者以外にも。
果たしてそれは誰なのか?
そしてサブタイトルにもなっているのに未だに出てこない新キャラは、いつ出てくるのか?
それではお楽しみ下さい!
朝。
今日も元気だ音叉が響く。
温度湿度で日々変わる音を聴き分ける、音叉の魔術師的コンディション確認法。
「ばっちぐぅー!」
僕の【耳】は正確無比、デジタルチューナーの値と寸分の狂いもない。
今日も一日、快適に過ごせそうな予……
「うわっ!」
……感も台無しになるとこだった!
転生ラノベのテンプレート、トラック事故。
気を抜くと脈絡もなく突っ込まれて、魂がバイストン・ウェルの方へと攫われる。
だからラノベの主人公たるもの、誰よりも交差点では注意を払わねばいけないのに、
(えっ?)
僕の場合、暴走トラックじゃなかった。それより圧倒的に小さい――女の子。僕と同じ制服の。
「…………ちっ!」
制服の鉄砲玉女子は「仕留めそこねたか」の舌打ちを残し、去っていった。
「な……なんだ????」
しかもそれは一度きりの偶発事故ではなく。
何度も。
何度も。
何度も何度も。
僕が交差点に差し掛かるたび、
「うぉぉっ!」
女の子が飛んでくる。死角から。僕を狙って。
まるで「人が飛び出してくる」と分かっている、教習所の事故再現ビデオみたいに。
(何かの嫌がらせ?)
もしかして、例の白い三連星が僕へ復讐を仕掛けてきてる? 同級生女子と徒党を組んで?
危険すぎる通学路を往なして、何とか学校へ辿り着くと……
バサー…………
下駄箱から雪崩落ちる紙束。
可愛らしい便箋にハートの封シール。元旦朝も真っ青の大量投函。
「この展開は……」
こうなれば大凡察しはつく。
教室では案の定、自分の机の中にメモが仕込まれてた。
何通も何通も、どれも内容は見なくても分かる。
「私と付き合って下さい!」
「だめ! 私と付き合って!」
ものは試しと昼休み、体育館裏へ出張ってみれば……ダブルブッキング、トリプルブッキングは当たり前のザ・修羅場。
そりゃそうだ、告白の順番に時間調整なんて概念は存在しない。
「恋と戦争はルール無用」が世界の掟。需要が過多なら、これが当然の帰結である。
が!
その鞘当ての対象が何故に【 僕 】なの?
(意味が分からん!)
先人曰く、人は誰しも幾度か、人生に於いてモテの特異点が訪れるという……
遂に到来したのか、この高橋椋丞(僕)にも? ラブの確変タイムが?
昨日まで「エロ動画先生!」とか蔑まれ、女の子たちに避けられていた僕が!
(いやいやいや!)
にしたって、この状況は異常だよ。
二桁を越える女子が、僕を巡って一触即発とか!
しかも何故か可愛い子ばっかり。学内ミスコンを開催したら、ランキングの上から順番に……みたいな顔触れが髪を引っ張ったり頬を抓ったり足を掛けたり、挙句の果てには平手打ち……
「邪魔しないで! あたしが先なんだからね!」
「嘘でーす! 私が最初だもん、残念!」
「ああ? 生意気イッてんじゃねぇぞブース!」
(本気だ!)
『これは僕をハメるための芝居なんかじゃない!』
僕の音叉も危険信号を警告してくる!
嘘偽りのない【 諍い 】の周波数が体育館裏に満ちている、と。
共鳴が共鳴を呼び、このままじゃ事故すら起きかねないほどのヒートアップ!
「こうなったら椋丞くんに選んで貰いましょう!」
「「「「「異議なし!!」」」」
ちょ!
ちょっと待って!
僕は異議あり、だよ!
こんな「誰を選んでも責められる」状況で何を応えたらいいの?
夜神月級の天才詭弁家でも切り抜けられる気がしない!
「さぁ!」
「「さぁ!」」
「「「「さぁさぁ!!!!」」」」
僕、既に退路なし。
体育館を背に、血走った目の女子たちに包囲された僕は、紛うことなき四面楚歌。
女子の体臭とフローラルな香りが吹き荒れて、更に意識を錯乱させる。
(進退窮まる!)
この人数では音叉達人拳で薙ぎ倒すことも不可能! 各個撃破の限界点は既に越えている。
集団心理の虜となった彼女たち、我も我もと恋愛原子核(僕)へ殺到するもんだから……もはや冗談抜きで死を覚悟せざるを得ない有り様!
こんなところで圧死のバッドエンド? ―― > 突然の死 < !?




