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藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 3

なんとか風邪も快方へ向かいつつ。

お待たせしました、続きです。


怒涛の初アフレコから一夜明け……

はっちゃけすぎた自分を反省しつつも、いつもの生活をリカバリしよう、とする椋丞。

が。

だがしかし。

いきなりバイトをクビになったかと思ったら、製作委員会の尖兵。宮居の襲撃を受け、

「なんのこっちゃ????」の我らが主人公、

激動の第二章、いよいよ始まりです!


挿絵(By みてみん)


「己が意に沿わなくとも、やらなきゃいけないこと。いっぱいあるのよ、大人の世界には!」

 嘘つきのヲタク成敗! とでも言わんばかりに宮居さん、

「誰もタダでやれとは言わないわ。大人の世界は――条件闘争の世界だから」

 倒れた僕へ馬乗りになって、【断れない取引】を迫る。

「高橋椋丞くん――――君は何が望み?」

 これがホントの圧迫面接。立派なお尻の重み(×2)で呼吸もままならない。

 払い除けたくとも、どこ触っていいのが分かりません女性の下半身とか!

「なんで僕にやらせようとするんですか? わざわざズブの素人に? 本職のディレクターに頼めばいいんじゃないですか?」

「製作委員会の意向は絶対なの!」

 僕の反論など聞く耳を持ってもらえない。最初から結論ありきの【圧迫交渉】。

「渋々やる、か、喜んでやる。そのどちらかよ! 高橋くん!」

「やりません」

 そう応えるしかないじゃないか。だったら。

 譲歩に意味を見出だせないなら「拒絶」しか応えはない。

「ならば一肌脱いで貰うしかないわね――最終兵器彼女(この子)に!」

 しびれを切らしたネゴシエーター(宮居さん)、いよいよ伝家の宝刀に手をかける。

「は!?」

 倒れた僕の身体を跨ぎ、中腰になってた錦松さん。

 宮居さんは彼女の背後へ取り付き、

「さ……やーっておしまい!」

 錦松さんのボトムスを力づくで引き下ろそうとした!

「は!?」

 冗談でしょ宮居さん?

 こんな露骨な業務命令ハラスメントを新人声優に命じちゃうとか!

 アッー!

 ダメです目を覚まして下さい! そんなの人として間違……


「……できません」

 対僕最終兵器(錦松さん)は反旗を翻した。抵抗の意思で、自分自身の大事な部分を死守した。

(助かった!)

 錦松さんは非常識を非常識と弁えられる良識の子。

 既成事実で異性をひざまずかかせることを良しとしない、倫理少女だった!

(信じてたよ錦松さん!)

 そんな歓喜の僕とは対照的に、

「使えない子!」

 約束された勝利を達成寸前で覆され、宮居さんは烈火の激怒。

「すぐに別の声優(子)、連れてくるから、首を洗って待ってなさい! ――高橋椋丞!」

 と捨て台詞を残して社長室から去っていった。



「ありがとう」

 製作委員会による非人道的作戦を思い留まってくれた錦松さんへ頭を下げると、

「お礼を言わなくちゃいけないのは私の方で……」

 錦松さん、恐縮して首を振る。

「収録が終わった後、監督を探したのに……いつの間にか、いなくなってたし……」

 気が動転してたからね、あの時は。よもやの【 タイムオーバー 】に目を疑って。

 取り返しつかない事態に直面すると、人は冷静な判断力を失うよね……

「あのぅ……監督……」

「ん?」

「……辞めちゃうんですか? 鬼界カルデラの音響監督?」

 錦松さん、不安そうな顔で僕へ尋ねてきた。

「辞めるも何も、僕は臨時の代理だったし……後は本職に引き継いで貰えば……」

「でも……みんな待ってます」

「と、言われても……」

 宮居さん(製作委員会 現場統括)にも「やらない」って啖呵切っちゃったし……

「みんな……いえ私が、待ってます!」

 ああもう【 罪悪感 】の琴線が切れてしまいそう。そんな瞳を向けられてしまったら。

 そんなにも全幅の信頼を預けられてしまったら。





 ※※※※ 一週間後 ※※※※


(待ってる、って言ったのに……)

 『鬼界カルデラ カールズコレクション』第二回収録日。

 アフレコスタジオは再びの緊迫が訪れていた。

(監督……)

 脚本には『音響監督 : 高橋椋丞』のクレジットが載っているのに、

 未だ本人は姿を表さず、待ち時間ばかり過ぎていく……

 通常ならディレクターは現場入りして、キャストと打ち合わせしている頃合いなのに……

 よもや【来るはずの人が来ない】アクシデントが再度、繰り返されてしまうのか?


「私! 監督…………探してきます!」

「落ち着きなさい錦松ちゃん」

 青い顔で立ち上がった「主役(錦松雪姫)」を先輩声優、武田香弥菜が止めた。

「もし入れ違いになったらどうするの? あなたがいなかったら収録進まないでしょ?」

 隣の金沢華も、やんわりと雪姫に自重を促す。

「で、でも!」

 ガラス越しの調整室には、製作委員会関係者と……一話目の収録には不在の、それでいて声優(同業者)には見覚えのある男性の姿があった。

「もし修理屋クンが来なかったら宮城野さんが録ることになりそうね……」

 彼は宮居が手配した【保険】のディレクターだろう、と役者たちも察する。

 宮居の高橋椋丞招聘作戦が不調に終わった際のスペアなのだろう。

「そんなの勝手です! 横暴です! ――――職権乱用です!」

 ままならない現実に、理不尽な状況に、雪姫が声を上げれば、

「あぁ~、泣いたらダメ、錦松ちゃん、変わっちゃうでしょ声が」

 武田香弥菜は大人の包容で雪姫(後輩)を嗜めた。

「分かってます…………分かっていますけど……」

「あーもう、メソメソしない!」

「すびばせん……」」

 後輩を抱き寄せ――武田香弥菜は優しく諭す。

「ねぇ錦松ちゃん」

「はひ?」

「あいつ(椋丞)を待ってるのは、あなただけじゃないんだよ?」

「え?」

「『今度は実力で修理屋あいつを黙らせてやる!』、この一週間の口癖よ、香弥菜の」

 気心の知れた金沢華が、香弥菜(親友)思いを代弁する。


 『熱烈歓迎、素人監督』 ――アフレコの借りはアフレコで返す。


「やってやんよ! 高橋椋丞ェ!」

 名うての人気声優たち、アップセットされた挑戦者への屈辱返上を虎視眈々と待ち構える。

 金魚鉢キャストはファイティングポーズで「監督」を待ち侘びた。


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