藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 2
風邪気味で頭がフラフラするので簡潔に、これまでのお話!
臨時の代理音響監督として、瓦解しそうな収録現場を救った椋丞だったが……
その代償として『特別な夜』への参加を逃してしまう。
更には、バイト先の社長から呼び出され、「お前はクビ!」と一方的な宣告まで!
なぜ?
なんでだ?
僕が何かしたというのか?
『徳』がガックリと下がってしまうインモラルな破戒的行動とか採りました?
身に覚えが全くないんですけど????
という、ところから、いよいよ動き出す第二章!
乞うご期待!
「椋丞」
暴君の笑みを浮かべた富士通さん(スリートップ社長)は、何事もなかったように仕切り直し、
「良いニュースと悪いニュース、どちらから訊きたい?」
台詞の順番が滅茶苦茶です、富士通さん(社長)。映像作品なら即座にリテイクです。
※※※※ シーンチェンジ・暗転 ※※※※
関係者向けの試写室で、納品前のフィルムを確認し終えた【彼ら彼女ら】は、
「「「「…………!」」」」
驚きに満ちた表情で互いの顔色を伺い合った。
「これ、アフレコを元にして描き直したヤツだよな?」
「仰る通りです。アフレコ芝居に合うように、大幅なカット変更を施したものです」
上司の横柄な質問にも、担当者は懇切丁寧に説明した。
「基本的には脚本通りなんですが……」
「直す前とは見違える出来じゃないか?」
担当者を遮って、一人が口火を切れば、
「面白いぞ、別物みたいに!」
「これはヒットする! 間違いなく!」
【彼ら彼女ら】は矢継ぎ早の賛辞を並べ立てた。
「而! 君は認められたのです、高橋椋丞くん!」
突然の回想シーンを露払いにして、パーテーションの陰から現れたのは……
「宮居さん!?」
権限以上に責任ばかり押し付けられる現場統括女子、
童顔巨乳のオヤジキラーが、どうしてスリートップの社長室にいるんですか? 意味不明です!
「椋丞よ」
社長(富士通さん)、悪い資本家の顔で僕の肩を叩き、
「今日からお前は、このスリートップ預かりの派遣修理員ではなく……」
「……ではなく?」
「「覇権のおしごとへ出向です!」」
腹に一物抱えた製作委員会女子(宮居さん)と告げてくる。呆れるほど無責任なユニゾンで。
「お世話になりましたー!」
ここまで露骨な甘言に騙されるほど、僕も馬鹿じゃない!
『美味い話には裏がある』の見本例じゃないか!
「待って、椋丞くん!」
女性とは思えない力で宮居さん、踵を返した僕の襟首を掴み、
「また声優さんとご一緒できるのよ? 全ヲタク垂涎のお仕事よ?」
「結構です! てかそもそも、僕はヲタクじゃないし!」
ヲタクじゃなくて音叉の魔術師 [ strings polygrapher ] ですから!
一緒にしないで下さい!
音の感情を読み取る高度技術職です!
だからこそ、あんな上質な感情表現が飛び交う空間に長居したら、僕は壊れる。
震えすぎた琴線が破断してバター虎に成り果てる。今度こそ!
「強情なんだから……」
「この手だけは使いたくなかった」とでも言いたげな表情で宮居さん、
本音では、秘薬を試したくて仕方がない魔女みたいな笑みで宮居さん、
「出ませい出ませい!」
部屋の主(社長)にも退場を願い――待機させていた『人間兵器』を奥から呼び寄せる。
(子飼いの舎弟でも使って僕を屈服させるつもりですか?)
そんな荒事は許されませんよ、この時代! 法令遵守が幅を利かせる時代に!
「……おはようございます」
「は?」
違った。僕の予想は大外れ。
宮居さんがパーテーションの影から招き入れたのは――女の子。
迂闊に触れたら壊れてしまいそうな、華奢で可憐な新人声優ちゃん。
「……錦松さん?」
しかも彼女、非日常の装いをさせられてた。
緑と赤紫、ジェリービーンズ色の皮革スーツ。
スーツと言っても、ビキニのトップスとローレグのショートパンツを組み合わせた上下に、黒光りするニーハイブーツと、革の手袋……
防御力の高い肩周りに比べて、お腹周りは全開で。
全身から漂うラバーの淫靡さといい、これはイカンです。イカンですよ!
軽い気持ちで外を出歩いてはいけない系の装い――――つまりコスプレだ!
色彩設計も、素材も、露出度も、全部ダメだ落第だ!
けしからん系女子の格好だ! 破廉恥学園もいいところだ!
そんなケッタイな色味のナースキャップを被っている看護婦は完全に架空の存在です!
悪い子じゃなくてもお注射しちゃうわよ系のエロティックナースじゃないか!
(宮居さん!!!!)
どう考えても貴女の差し金ですね? 新人声優へセクハラとパワハラの二重奏を強いたのは!
俯いて縮こまる錦松さんを見れば嫌でも分かりますよ!
肌色部分が多すぎて隠そうにもどこから隠したらいいのか分かんない様子じゃないですか!
「行きなさい錦松雪姫! 対ヲタク最終兵器彼女!」
だけど、馬鹿正直に諌めたところで畏まるような社畜女子じゃない。
事(上司の命令)を遂げるためなら手段を選ばぬ、それが一流の社畜メンタル。
「魅了スキル拘束EX!」
理不尽クライアントから命じられるがまま錦松さん、赤面しつつも詠唱ポーズをキメて……羞恥心の限界です! とでも言わんばかりの勢いで、その身を預けてきた。
「ひい!」
ゴルゴーン(コスプレ声優さん)に魅了されてしまった僕など、赤子の手をひねるようなもの。
いとも容易く来賓用ソファへ押し倒され……自由を失った。




