第二章 藤村由綺佳と吉井春宵のツインビーPARADISE! - 1
「はじめてのアフレコ」、翌日。
睡眠不足の僕は当然、授業にも身が入らず……
目の下のクマを『淫猥な活動のせいだわ』と、女子たちに後ろ指差され、
いつも以上に荒んだ心で放課後を迎えた。
「やっちまった……」
それもこれも自分自身のせい、自業自得に他ならない。
他の誰でもない、己の不始末が原因だと自覚してる。
僕が馬鹿で阿呆で抜け作だったせい。
「うわあああああああ!」
遠巻きの同級生から不審がられるのも構わず、頭をガンガン柱へ打ち付ける……
「一生の不覚……」
人生の岐路に立たされた新人声優、彼女の為のスタンドプレー、それ自体に後悔はない。
自分が採るべき道だったと思う。
が、
だがしかし!
「天罰だ……」
(致し方ないこと、とはいえ)先輩声優さんたちへ働いた失敬千万、その罪は免れ得ない。
彼女たちも選ばれし日本有数の巫女なのに……
致してしまった粗相には、相応の報いも覚悟していた。
音叉の魔術師 [ strings polygrapher ] として。
「にしたって神よ……」
痛すぎた。
下った神罰の重さは、計り知れないほど重かった。
昨晩。都内某所のアフレコスタジオ。
業務時間外の修理依頼のはずが、何故かアフレコを取り仕切る音響監督に据えられ、
最初はグダグダだった役者さんたちを何とか鼓舞し、結果として最高のグルーヴで録り終えた「鬼界カルデラ ガールズコレクション」の第一話収録。
本来務めるはずだった監督の逮捕というスーパーハンディキャップを、最良のカタチで終えられたはずだったのに……製作委員会の関係者、スケジュールキツキツの売れっ子声優さんたち、頭角チャンスを逃せない新人声優ちゃん、それぞれが満足のフィナーレ。
握手、ハイタッチ、ハグ、アイコンタクトなど、各人各様に健闘を称え合った。
が、
だが、
その中に一人、致命的ミスを犯した奴がいた。
「マジかあぁぁぁぁぁ!」
北斗神拳四兄弟の次兄並みに白髪化したかと思った。
充実は時間を忘れさせる、とは言うけれど……
とっぷり日も暮れてから始まった収録だったけど……
(こんな時間!?)
僕の目論見を大幅に越えて――スマホは既に翌日の日付を示していた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
コインがミッシリ詰まった貯金箱をガンガン頭へ打ち付けても、
「はぁーい、夢でした!」とか巻き戻るはずもなく。
「ああ……」
僕の【特別な夜】は霧散霧消。
一日千秋で待ち続けたスペシャルナイトを棒に振った――その現実は覆らない。
「死にたい……」
(何が悪かったんだ?)
昨晩の失敗の元は何だ?
・社長からの依頼を知らんぷりして、携帯を捨ててしまえば良かったのか?
・それとも新人声優から逃げる際、タクシーを拾おうとしたのが愚策?
・てかそもそも、修理(仕事)を終えても、ズルズルと現場に居残ってたのが原因では……
いや。
(無理だな)
音叉の魔術師 [ strings polygrapher ] (僕)にとって、極上紐はローレライ。「溺れるな」と言う方が無茶なのだ。
「錦松さん……」
一夜明けても反芻される響き。耳の奥で彼女の周波数が鳴る。
遅かれ早かれ彼女はスターダムに伸し上がるだろう。あれほどの才能の持ち主なら。
それを僕はメディア越しに眺めるだけだ。
もう二度とは会わない……
ビリリリリリ……
「社長?」
珍しい。【仕事 依頼】以外の件名で、社長からメールが来るなんて……
「直に会いたいから、スリートップの本社事務所まで来い?」
どういう風の吹き回しだ?
「椋丞、お前はクビだ」
「富士通さん!」
出会って四秒でクビ!?
わざわざ御足労願って、即クビ!?!?
ひ、ひどい! 理不尽にも程がある!




