表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

君に届け、錦松雪姫のスウィートイグニッション - 10

僕(高橋椋丞)が放つ反撃の一手!

「たったひとつの冴えたやりかた」なんてお決まりの中二ワードを気取ってみたけれど、

本当に効くの? それ?


相手は百戦錬磨の人気声優さん。

一筋縄ではいかない相手じゃないの?


細工は流々、あとは仕上げを御覧じろ!

 ブルルルッ!

『援助交際してそうなキャラとか、風評被害は止めて下さい!』

「「「「…………」」」」

(――始まるぞ――――待ったなしだ!)

 演者たちも気づき始めている。テストとは違う緩慢な、それでいて無視できない違和感に。

「「「「…………」」」」

 原因は内側から。

 ジリジリジリジリ……集中を阻害する【疼き】が体の奥から湧いてくる。間断なく、何度も。

「くっ!」

 たまらず演者たちは、自らの身体を抱いてうずきを抑え込もうと図るも、

(無駄ですよ!)

『セクハラですプロデューサー!』

 錦松雪姫(新人声優)の声が先輩たちへと冷水をぶっかける!


「「「「(ひゃっ!)」」」」


 浴びせつけられた刺激は、相当の場数を踏んできた声優たちですら、危うく不規則発言を漏らしそうになるほどで。

 職業的本能でノイズ(悲鳴)を抑えるものの……やがて、身悶えながら膝を屈していく。

 バタバタ貧血を連鎖する朝礼女子みたいに。


 アフレコブースに突如訪れた【異変】。

「何が起こってるんだ?」

 さすがの製作委員会勢も取り乱し、右往左往し始めた。

「宮居さん…………これ止めなくていいの?」

「で、でも本番中ですし……」


(いいぞ! そのまま!)

 戸惑う関係者各位を横目に、僕は錦松さんへ追撃のハンドサインを送る。

『訴えますよ! 弁護士を呼んで!』

(それそれそれ! それでいいんだ錦松さん! 容赦するな!)

 演技の熱で楔を打ち込め!

 傲慢に――傍若無人に――先輩たちを踏みつけていけ!

 さかしらげな顔で演技を舐めてる年長者へ、思い知らせてやれ!

 無知蒙昧むちもうまいな関係者へ目に物見せろ!

『欠員の穴を埋めるのは上司の責任です!』

 効いてる効いてる!

『私…………アイドル辞めます!』

 錦松さん絶好調、極上の音波が双方の部屋(金魚鉢と調整室)へと響き渡る。

(ググググッド・バイブレーションンンンン!)

 それを受け止める僕の音叉は暴発寸前、

『本当の正義と人間の本質、そして感動を残すのがアイドルの使命じゃないですか!』

 自信満々で演じきる錦松さん、会心のクリティカルが全ての音叉を激しく震わせる!

 やっぱり錦松雪姫(彼女)は大器だ。 [ strings polygrapher ](僕)の耳に誤りはない。


「やってくれたわね……」

 ほとんどの主要キャストが膝を屈する中――

 息も絶え絶えの武田香弥菜、人目も憚らず自分の胸元へ手を突っ込み、

「こんなもの!」

 引っ張り出す――――ネックレス。


 それは先程、僕が主要キャスト全員に着用を願った【呪具】だ。

 ネックストラップの先に、シンプルなU字金属片ペンダントトップを括り付けただけの即席ネックレス。

 そう。その「金属」こそがキモなのだ。

 特定の周波数にだけ激しく、過敏に反応するよう設定した――音叉が正体だ。

 一見ただの素朴なアクセサリにしか見えない、僕の秘密兵器。

 だが実際は、 [ strings polygrapher ] (僕)の特製チューニングが施してある。


「意味――――分かりますよね? 武田香弥菜さん」

 激情のままにペンダントトップを引き千切ろうとした彼女(武田香弥菜)へ僕は問いを投げる。

 トークバックで音叉の「 意 味 」を問いかける。

「……………」

 ガラス越しに僕を睨んでくる武田香弥菜――――彼女(トップ声優)の瞳は雄弁だった。

「……………」

 唇は動かなくとも『 分かる 』と。


 音叉に設定された周波数は【 何 】を震わせるのか?

 それは【 快 】だ。

 つまりエンターテイナーが最も奏でるべき音。

 お客を喜ばせる、気持ちよく聴かせる周波数に設定してある。

 特に、彼女らの上得意であるヲタク向けの、ピンポイントな高さで。


 武田香弥菜の不愉快は図星だからだ。

 妙なバイブを服の中に仕込まれたからじゃない。

 なぜベストを尽くさないのか? という外野からの不躾なツッコミに感じる罪悪感。

 それが彼女(武田香弥菜)を苛んでる。

 『私だって本当はリミッターを外したい、思うがままに全力で演技したい――――だけど、後先考えたら、適当に流すのも賢明な判断よ。プロとして理性的な選択だし』

 という罪悪感に向け、高橋椋丞(僕)渾身こんしんの必中攻撃は放たれた。


「『ディレクターなど居なくたって、私たちは演ってみせる』でしたね?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ