第一章 君に届け、錦松雪姫のスウィートイグニッション
タイトルそのまんまです。
声優さんと恋する話を書こうと思います。
まずは若干の前フリにお付き合い下さい。
皆様の気に入るお話になれば幸いです。
感想、随時募集中。
短くても良いので、なにとぞ、なにとぞ……
霞城中央高校には、珍奇な異名を持つ生徒がいる。
「エロ動画先生!」
「エロ動画先生のお通りだ!」
――ま、僕のことなんだけど。
なぜ僕が、そんな珍名を拝命させられたのか?
それは僕が『能力』を持つからだ。
早朝の部室棟。
文化部棟には閑古鳥が鳴く――――はずである。
運動部よろしく、朝練に励む者など存在しないのだから。疑似体育会系の吹奏楽部を除けば。
ところが……
月曜日「だけ」は事情が異なる。
部室棟の【ある部屋】に、謎の人口過密地帯が発生するのだ。月曜の朝に限って。
「諸君! ――世界は失われた!」
『集会』を統括する男子生徒が聴衆(男子たち)へ訴える。憤懣やるかたない表情で。
文化部部室棟、一階最奥、PC研部室。
窓には暗幕が張り巡らされ、仄かな燭台が照らす室内。
男子たちは、部屋中央に鎮座する【御神体】を囲み、悲嘆に暮れる――哀れを叫ぶ。
「あ"ー」でも「う"ー」でもない、ゾンビの断末魔が薄暗闇に木霊する。
彼らが掲げる携帯の画面には『このサイトは閲覧できません』の警告文が。
「――世界線は遷移した!」
何のことはない、校内Wi-Fiの管理者パスが、週を跨いで自動変更されただけなのだが。
しかし――そのパスが大問題。
それを突破しない限り、生徒たちはフィルタリングに悩まされる。
通信の自由を著しく制限する極悪フィルターに。
学校側が設定した制限は、健全サイトすら誤爆上等で検閲する難物。
肌色多めのページなど問答無用でブロックの餌食だ。
実際、日本相撲協会の公式サイトですら閲覧出来ないのだから。
それは男子たちが代々悩まされてきた、曰く付きの検閲なのだ。
「「先生、お願いします!」」
その目の上のたんこぶを始末するために、高橋椋丞(僕)は招かれた。
男子たち(彼ら)の持て余したリビドーを救う――アルカトラスの鍵師として。
「この窮地から我々をお救い下さい! 先生!」
「「「「エロ動画先生!」」」」
僕は愛用の音叉を掲げつつ、悩める男子たちへ宣言する。
「その依頼――確かに請け負った!」
打破してみせよう――――自由遮るその壁を!
「「世界は――」」
「「紐で出来ている!」」
男子ばかりの暗黒舞踏が【御神体】を巡る。なんともムサ苦しい、闇のお遊戯会。
「「Bluetooth接続確認――」」
「「怠らない!」」
しかも伴奏は「酷い!」なんてもんじゃない。
ノイズなのだ。
ジャンルとしてのノイズミュージック、という意味ではない。純粋な機械的ノイズである。エンタメ要素ゼロの【騒音】で踊る男子たち。部外者には、とても正気の沙汰には見えまいて。
「「教師にバレても――」」
「「口、割らない!」」
しかし男子たち大真面目。一心不乱にダンスダンスダンス。祈りよ届け! とばかりに闇のオクラホマミキサー(ソロver.)を舞い続ければ…………
ビリビリビリビリ!
それまでピクリともしなかった音叉(御神体)が――――突然――激しく共鳴する!
「神託ハ来タレリ!」
即座に音叉の振動を検知したPCが、『該当箇所』を割り出す。
それは【 圧政 】のトリガー。
RS-232Cプロトコルによって「可音化」されたプログラムコードから、音叉が拾い上げた――抑圧の痕跡。一週間ごとに書き換えられる情報牢獄の「鍵」だ。
高橋椋丞(僕)は [ strings polygrapher ] 、あらゆる感情の周波数を特定する、音叉の魔術師。
該当するバイナリアドレスで解析プログラムを走らせれば……
「ビンゴ!」
今日も今日とて、世は全て事もなし!
「これが答えだ!」
餌を待ちかねた雛たちへパスコードを掲げると、
「先生ッ! 先生ッ! エロ動画先生・ザスーパースターッッッッ!」
男臭い歓喜が早朝の部室棟で沸騰した。