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スパイ経済

作者: 浅賀ソルト

科学技術の発展には膨大なコストがかかる。その研究だけすればよいわけじゃなく、義務教育から基礎研究、その他諸々の裾野を広げてやっと花が咲き、他国に対しての優位性を得られるわけで、分かってても出来るところは限られている。

というわけで俺の国が選んだ方法は産業スパイだった。

それも自国に情報を流すスパイじゃない。ほかの国に情報を流して優位性を潰すスパイだ。

これは十年二十年という時間を見据えた計画であり、百人以上いた同期に語られた、本当の国家戦略であった。

「いずれ我々も先進国と肩を並べることになるだろう。だが、今すぐは無理なのだ。今は侵略され、搾取されないために、一番賢い手段を取る必要がある」

それにしてもすごい人数だと思った。毎年百人のスパイを育成する金も安くはない。それでもなお開発よりは安いのだ。人はたくさんいるが、そもそもまともな産業と呼べるものすら無い。先進国との距離はまだ絶望的だ。

死ぬほど勉強して、世界中のトップ産業のトップ企業に就職する。あるいは留学という形で学習から利用する。研究職に就けなくてもアクセスできる場所で活動できればいい。それは能力次第だ。清掃員になる奴もいれば機械メンテ、事務、通訳、あるいは本当に役員になる奴もいるだろう。

もちろん俺はほかのスパイの顔を知らない。全員がスパイだと思っておいた方がルールはシンプルだ。

俺は優秀な頭脳で、研究職のメンバーに加わることができた。

給与も含めて厚待遇だ。母国の公務員だってこんなに裕福じゃない。

愛国心というのは不思議なものだ。別に俺は愛してるというわけではなく、国の為に死ねと言われたら丁重にお断りする男である。命令する方だって国の為に死ぬつもりがあるとは思えない。裏切ったら殺されるという恐怖があったわけでもない。まあ、実際には殺されるかもしれないが、恐怖がスパイ活動の原動力というわけじゃない。

ただまあ、うちの国が馬鹿にされてるのは面白くない。A国B国C国と十か国以上がしのぎを削っているこの競争社会で、俺の国はただのカスだ。

いい給料貰って結婚もして、家族がここにできても(合理的に考えれば、俺が産業スパイをする理由はほとんどなかった。うちの会社が技術を独占してる状況ほどおいしいものはない)、俺は定期的に他国の企業に情報を流し続けた。

おかげでどこもがドングリの背比べの状況だった。俺の母国は汚職や利権争いばかりになり、一時期の先進国に追いつこうという気概が感じられなくなったが、先進国も指をくわえて追いつかれるのを待ってるわけがないから、これは連中の工作が成功しているんだと見るべきだろう。

まあ、俺としては、そこは解決して貰いたい。とにかくどこかが独占してしまわぬように活動しているうちに、平均の底上げをして、祖国が肩を並べて欲しいものだ。

生活には困ってないが、生きてるうちにその成果を見たいものだ。

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