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お腹が満たされ少し元気になったけどヒカリの体が心配だったので、昨夜彼女が言っていた俺の体力作りの午後の練習は中止した。
それで、まずはこれから1週間過ごす近所をぐるりと軽く散歩でもと話がまとまり、夏の日差しを避けるために長袖を着てジーンズを履き深い帽子を被った暑い夏には相応しくない格好の彼女と短パンに半袖の俺と2人玄関を出て数歩くと、突然、メールの着信音が鳴った。
着信を無視してもよかったが2人での散歩が課金の対象にでもなったら大変だと発信元を確認すると、隣の南からだったので、まぁ、後でも開こうと無視して出かけた。
駅前の商店街などを見て歩き、それから河原などを散歩して、さすがに夏の午後の日差しが強い上にヒカリが朝から弱っていたので図書館横の公園の日陰でベンチに座り、冷たいジュースでも飲みながら休憩を取り彼女と2人でまた何気ない会話をしていると偶然なのか南と出くわした。
「初めまして、そちらがヒカリさんね、私が隣に住んでいる安倍南です。おばさんから大学受験の話を聞いていますよ」
俺は、南からの着信に気づきながら返信していなかったので少し気まずかったが、
「そうそう、この娘が従妹のヒカリちゃん、俺たちと同じ高校2年生です。よろしくしてね」と愛想笑いで答えると
とっさにヒカリはバンパイアの本能で南の家系を察知し敵だと判断したのか、
「初めまして、平助の許婚の森ヒカリです。いつも彼がお世話になっています」と南にいきなりとんでもないことを言ってきた。
おしゃべりな母が南とヒカリに何を吹き込んだか分からなかったけど、従妹から許婚への3ランクアップに驚いたが内心は嬉しく、さらに彼女に俺の心が傾くのが分かった。
「許婚なんて冗談、きつい冗談だよ。昨日から家に遊びに来ているだけだよ」と俺は顔を引きつりながら南に説明したが、あくまでも南は冷静に装っていたが2人の間はまるでアジアのあの半島のように一触即発に見えた。
「大学受験ですって。どこを受けるの」と南が軽く攻めてくると
「一応希望校はありますが、平助と一緒ならどこの大学でもいいんです」と彼女は爆弾を投げて反撃した。
「平助と一緒なら」という言葉を聞くと、さらに彼女に俺の心がグッグッと傾いたが、非武装地帯から急に戦闘地帯の真っ只中に引きずり込まれた俺は、
「大学に行くかどうか未だ決めてなし、それに入試は再来年じゃないか。
それで、南は隣の図書館に何か用事でも」と話題を逸らした。
「そうそう、今日中に本を返さなきゃ。それじゃ、またね平助、それとかわいい許婚さん」と余裕を持って対応したが、
「でも、妖怪とは違うわね。西洋の方かしら、変ね少し血の匂いがするわ」
南は妖怪退治なる古めかしい本を小脇に抱えて、下を向いて訳の分からないことをつぶやきながら図書館へ向かって歩いて行った。
「ヒカリちゃん、急にどうしたの、少しおかしかったよ」
「ごめん、ごめん、ちょっと南さんの本が気になったから、つい」
「あぁ、あの本、南はお家柄あっち系が好きだからな、気にしなくてもいいよ。
でも、こっちの大学なんてご冗談でしょ」
「それが満更冗談でもないのよね。一応こちらの世界への留学も考えているし」
その言葉を聞くと、俺はなぜか少し嬉しくなり、更に詳しく聞くと
「そんな留学があるのか、ヒカリちゃんって頭いいんだね」
「もちろん、だって異世界に派遣されるほど、成績はいいのよ」と笑っていた。
何の苦労もせず異世界に召喚された俺には、進んで自ら異世界へ派遣されることがどれだけ大変なものか計り知れないものがあったが、今の女性は凄いなぁーと感心した。
「夜も暑くなりそうね。そうだ、今日は夕食の後に練習ね、その後お風呂にしましょうか」と汗を拭いながら彼女が提案すると
「確かに、汗をかく練習の後にお風呂は正解だね。今日はぐっすり眠れて朝の寝起きもよさそうだ」と直ぐにのった。
「じゃ、今日からは本格的に剣と盾を使って練習をしましょう。決まりね」
「そうだけど、ヒカリちゃん、頼むから半獣になるのは止めてくれないか。人に見られるとマズイし、半獣を見ると恐怖心で俺は動けなくなるし、それに半獣を相手にするほど強くもないし」とお願いをした。
「確かにそうね。私も疲れるし、昨日のあれじゃ、平ちゃんは勇者というほど強くはないよね」と本音を言われるとその事はよく分っていたが
「分かっているけどそれを言うなよ、なんせ俺は勇者暦1週間、実質1日のなんちゃって勇者だからな」
「それじゃ、初心者っていうことで第二形態で決まりね」と難しいことを言ったので
「第二形態って、具体的にはどうなるの」
「そうね、今の体に毛が生えたぐらいの強さかな」と意味深な答えだったので、
今の彼女に毛がはえた感じを想像していまし、俺の顔がスケベ顔に崩れると
「何、想像しているのよ、この変態勇者様」とかわいく罵られたが、
「かわいい女子高生か半獣に変身するほどの変態じゃない」と笑って返した。
公園の日陰でも夏の太陽が眩しくなったので、また帰りに商店街を通って夕食の惣菜などを買い、2人でアイスを食べながら楽しく帰ったが、俺はいつの間にか恋人気分になっていた。