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駅前の商店街で2人で食材を買いながら、俺はほんの1ヶ月前が凄く昔のように懐かしく思えた。
そういえば、彼女に出会って直ぐにここで夕飯のお惣菜を買って、家に帰りながらアイスを食べたな。あの時は手さえ握れなかったのに・・。
今はこうやって仲良く夕飯の食材の買い出しか、あの時からすればまるで夢の話みたいだ。
決してこの夢を壊してはいけない。絶対に大会では負けられないと決心していると、それが顔に出ていたのか
「何、難しい顔しているの、カレーは簡単なのよ。私にも上手に作れるわよ」と笑っていた。
家に帰ると母が買い物に出ていたので駅前で買ったお惣菜でお昼を済ませると、彼女は早速カレー作りを始めたが、最初は鼻歌交じりで楽しそうに作っていたが、剣と包丁とは使い出が違うのか、途中から結構時間がかかってしまいイライラしているようだったので、俺は自分の部屋に逃げていた。
するとカレー作りが終わったのか、俺を彼女の部屋に呼んだので、きっと何かいい事でも有るのかなと思いウキウキして部屋に入ると彼女は大人の姿でいつもとは違う厳しい目つきだった。
「それでは、中村平助さん、事情聴取をしますので、私の質問に正確に答えて下さい」と椅子に座らせられると、先日の公園での暴漢の件に付いて詳しく詰問して、調書を作成しだした。
「それは、何時、どこでですか、
貴方は何の目的で、そこにいらっしゃったのですか、
その時貴方はお1人でしたか、どなたかと一緒でしたか、
相手の特徴は覚えていますか、相手は何人でしたか、
それで、どんな武器を所持していましたか、どんな攻撃をしてきましたか、
暴漢に襲われる心当たりは有りますか、人に怨まれたりしていませんか、
他に何かお気付きの点はありませんか」
等々と厳しく訊いてくるので、これが本来の彼女の仕事なんだなと感心していた。
一応一通りの質問が終わり、調書を作成し俺にサインをさせると
「ご苦労様、ありがとうございました」と目つきが穏やかになり、俺に抱きつき
「ごめんね、これが仕事なの」と謝ったが、俺が彼女の手を強く握って
「他の人にも抱きつきはしていないよな」と鋭い目つきで厳しく質問すると
「そんなことは、していません。平ちゃんだけです」と答えたので、2人して笑っていた。
「じゃ、俺の事件にも、あのじいさんが一枚噛んでるのかな」と尋ねると
「未だそれは分らないけど、出場させたい平ちゃんを襲うなんて、ちょっと変よ。この件は別人じゃないの」
「じゃ、誰だろう。俺の回りにはそんな奴はいないけど、君の関係者かな」
「そうかもしれないわね。もしかすると平ちゃんを痛めつけて、手っ取り早く私と平ちゃんの間を割こうとしたのかも」
「それにしてもしつこい奴らだな。2度も俺を襲うなんて」
「ん・・今何って言ったの。2度も」
「あぁ、2度さ。以前にも同じ奴等に襲われたよ」
「ちょっと、早くそれを言ってよ。調書、作り直さなければいけないじゃないの」と怒り出した。
「そうなの、ごめん、ごめん」と謝ったが、また数十分時間がかかってしまったので、彼女は本当に疲れてしまったようだ。
午後からの練習は俺の左腕を心配したアラタが休みにしてくれたので
「じゃ、午後からは何をしますか、ご希望どうりに映画にでも?」と尋ねると
「ごめんなさい、まだ他の被害者の調書の作成が残っていたの。たぶん夕方までかかりそう」と残念そうにしていた。
「そうなの、まぁ仕方がないよ、仕事でこっちに来ているんだから」と慰めたが
「そうですね、誰かさんのお陰で時間がかかりました」と愚痴を言ったので、俺は彼女の仕事の邪魔にならないように自分の部屋に戻った。