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朝食を終えて、自転車の2人乗りをして剣道場に向かう途中に彼女に俺の記憶が直ぐに戻らないか訊いてみた。すると、ブスッと後ろの席に座っていた彼女は少し何か考えているようだったが
「急にどうしてそれを訊くのよ、何か思い出したい事でもあるの」
「それがあるんだ、剣道の経験を思い出したいんだ。そうすれば今よりもっと強くなるんじゃないかと思って」
「そうね、確かに思い出せば強くなるかもしれないけど、直ぐに全部は無理だしそれに危険よね、専門家が時間をかけて少しずつなら出来ないこともないけど」と難しそうに答えた。
「それじゃ、間に合わないんだよ。来週の武道大会までになんとかならないかな」
「来週って、それは絶対無理よ。特に平ちゃんのは何処かの政府の機関、例えば記憶管理局とかが関わっていると思われるうので、専門家でもそう簡単にはいかないと思うし、もし、上手く記憶が戻ったとしても、ピンポイントに剣道の経験だけが戻ればいいけど、色んな記憶も蘇るかもしれなし、それに後遺症やその後に何があるか分らないので危険よ」と難色を示したが
「たった10分でもいいんだ、試合をしている間だけでも戻れば、どうにかなるかとは思うんだがな、やっぱり無理かな」と俺は無理を承知でが懇願した。
「10分ね・・」と、また少し考え込んでいたが、何か思いついたように
「犯罪者がね、私達が自供を迫った時に、例えば盗品を隠した場所がばれないように、わざと自分の記憶を消す時があるのよ。その時にね、私達はある薬を飲ませて思い出させるの、そうすると消した筈の記憶が戻るけど・・」
「それは俺にも使えるのか」と藁にも掴む思いで尋ねると
「それは安全な薬だし、もちろんドーピング検査にも抵触はしないけど、それが平ちゃんに上手く利くかどうかが問題だし、その後がね、また問題なのよ。でも、平ちゃんが是非にと望むなら一か八か試してみてもいいけど、だけど時間はせいぜい長くて5分かな」
「5分で大丈夫、試合はそんなに長引かないよ。だって1回戦の相手はたぶん前年の優勝者だから」と、やっと記憶が戻る方策が見つかったと明るく答えると
「ちょ、ちょっと、待って。平ちゃんの相手って彼なの、あらどうしよう」
「彼って、君は前年の優勝者を知っているのか」
「だって、同じ警官だし部署も一緒だもの。知っているどこじゃないわ。どうしよう、困ったわ。部長の命令で彼の応援に行かなきゃならなかったのよ。だって彼、特捜本部のエースなんだもの」
「えっ、俺じゃなくて、俺の相手を応援するってどういう事なの」
「だって、応援を決めたのは平ちゃんが出場するって聞く前の事だし、まさか1回戦で彼と当たるとは思わないし、それに、社会人には色々事情がるのよ。
ごめん、それは分ってね。後で何でもするから」と後ろに座っている彼女が俺のお腹の辺りをくすぐるので
「分った、分ったよ。急に出場が決まった俺も悪いし、それまで君に連絡しなかったからな、もう気にしなくていいよ」
「でも、そうね彼と戦うとなると今の平ちゃんでは秒殺ね。もし、剣道の経験の記憶が戻ったとしても20秒もつかしら」
「記憶が戻っても20秒・・、やつはそんなに強いのか」
「だって、私より断然強いのよ。もし平ちゃんが勝つとしたら奇跡よ。それに偶然が3回ぐらい起こらないとその奇跡は起きないのよ。だから無理、後は怪我をしないようにして下さい」と笑っていたが「でも面白そうね、本当の平ちゃんがどれほど強いか見てみたいわ」と小声で呟いた。
「おいおい、面白そうって、俺は真剣なんだぞ」
「あら、聞こえたの。だって、私の愛する勇者様は強かったんですもの。私のために1人で何人もの悪い奴をやっつけたし、それに変な技も使ったし」
「おいおい、それを言うなよ。俺は勇者になってまだ2ヶ月なんだぞ。それに、その変な技って何だよ、俺にもそれが使えるのか」
「私もよく覚えていないわよ、もう数百年前の話でしょ」
「そうだな、俺は2年前のことが思い出せないんだ。君に数百年前の事を訊いたりして、そりゃ無理だよな」と2人で笑った。




