1-2-1
1-2-1 8月2日月曜日
ピポピポピー、けたたましく朝6時に目覚ましが鳴り目が覚めると、いつもと同じ2階の自分の部屋だったが、シングルベッドが少し狭く感じられた。
そして、昨夜は疲れて練習用のトレーナーのままで寝てしまったようだ、いつものパジャマは着ていない。
どうにか目だけは覚めたが、公園で悪い虫にでも刺されたのか痒い首筋を掻きながら、今日の寝起きは低血圧でもないのに頭がぼうっとしている。年に数回しかない最悪の日だ。
そうだ、どうやって家に帰って来たのだろうと疑問に思いながらベッドから起きようと手を伸ばした瞬間、手に柔らかい感触がする。
何があるのだろうとぼうっとしたまま目をやるとお試しモンスターのヒカリが下着姿で俺の横に寝ている。
驚きと興奮で思わず頭が空っぽになり「な、なんだー」と叫ぼうとしたが直ぐに口を押さえた。
「どうして彼女が俺の横で寝ているのだ」
それも下着姿で、どうして、どうしてと考えたが、その疑問の答えより先に
「これはラッキー、何と言う幸せがやって来たのだ」の感動が先に来た。
短い人生ではあるが最高の日がついにやって来たのだ。
疑問はどこかに飛んでいき、これは日頃の行いの御褒美に違いない、早起きは三文の得どころか、鴨がねぎを背負ってゴマダレまで持って来たみたいだと思った。
その誘惑に直ぐに負け、起きている顔もかわいかったけど、やっぱり寝顔も凄くかわいいよなぁと顔を近づけたが、その時、昨夜の半獣の顔が頭をよぎった。
「罠だ、これは罠に違いない」何処かにビデオでも隠してあって、あとで怖いお兄さんが出てきて金を出せと、もし払わなければ殺される。
きっと手を出したら今度は彼女に殺される、それも噛み殺されるか肉体を引き裂かれて殺されると訳の分からない恐怖映画を想像してしまい、朝に股間の聖剣が大きくなっていたが直ぐに元に戻った。
それまでは据え膳食わぬは男の恥と思っていたものの、お相手モンスターとは美人局的な罠かもしれない。
この先の長い人生には代えられないので仕方なく我慢したが、落ち着いて考えてみると、俺が何もしなくても、ここで彼女に何か騒がれると非常にマズクなる。
彼女に何かすると金を要求されるか殺され、何もしなくてもこの先の長い人生がここで終わってしまう、やっぱり最悪の日だ。
「そうだ、知らない振りをしよう」今朝のことは全て忘れるんだと彼女を起こして騒がれないようにそーっとベッドから起きて、ぐっすり寝ている彼女をそのままにして、いつものように何食わぬ顔で朝ごはんを食べようと1階に急いで下りると
「ヒカリちゃんは、どうしたの、まだ起きないの」
母の一言に俺の心臓はドキッと一瞬止まりかけたが
「起こしてみたけど、昨日の移動で疲れたって。お昼まで寝させて下さいって」
上手くごまかしてピンチを脱したかにみえた。
「じゃ、母さんが起こそうかしら」
いつもより早く仕事に出かける準備をしていた母が凄いことを言い始めたので、このままでは彼女が自分の部屋ではなく俺の部屋での寝ていることばバレてしまう。
昨日来たばかりの若い女の子を自分の部屋に引き込んだ、それも血の繋がった従妹をと母に思われると家庭崩壊だ。思わず、
「母さん、急がないと仕事に遅れるよ。後片付けは自分でさせるから」
「そうね、じゃ、今日はゆっくり休んで、大学の下見は明日からね」と母は仕事へと出て行った。
母が居ないので今家に居るのは俺と彼女の2人だけになった。
これで俺の部屋に彼女が寝ていることを他の人に知られないので一先ずは安心だ。
少し落ち着いたので、そのまま朝ごはんを食べていると俺のスマホの着信音がなったような気がしたので、俺は、一度自分の部屋に戻りたかった。
いや本当は、着信を口実に部屋に戻り、スケベ心からかわいい彼女の寝顔をもっと見たかったし、できれば頬にチュウでもしたかったのかも。
でも、そんなかわいい彼女が寝ている部屋に戻ると理性を無くして襲いかねないし、逆に彼女が半獣になり勘違いをして俺を襲いかねない、どちらにしろ、それで長い人生を不意にしたくないし、などなど考えていると気が変になりそうになった。
そうだ、このまま家に居ては気が変になりそうで「駄目だ、外に出よう」
運よくトレーナーのままだったので、いつもなら絶対にしないはずのジョギングでもと玄関を出ると朝の勉強会に向かう幼馴染で隣に住む安倍南に出くわした。
「おっ南、おはよう」
「おはよう平助、なに、そのげっそりした顔、徹夜でもしたの、それに、平助が朝早くからジョギングなんて珍しいわね」
俺が朝から力なく挨拶すると南はいつもと同じように元気よく挨拶を返してくれたが、俺の異変に直ぐに気付くなんて、さすが付き合いの長い南。
「そういえば昨夜は誰かとジョギングしたわね、誰なのかしら」とすれ違いざまにぼそっと洩らした。
しまった、ヒカリと2人仲良くしているところを見られたかと思ったが、聞かなかった振りをしてその場を走り去った。
軽く辺りをジョギングして、公園で体操などしてぶらぶらと時間をつぶし、その後、家に帰って仕方なく1階でお昼近くまでテレビを観ていた。
そろそろお昼になったので2階の俺の部屋に上がったが、さすがに彼女は既に自分の部屋に戻っていて俺の部屋にはいなかった。
直ぐに机の上に置いていたスマホのメールの着信暦を調べると、どこからも着ていない。
「あれ、さっき着信音が鳴ったと思ったけどな」
大会本部事務局からのメールは着ていなかった。
朝の添い寝は課金されていないようだ。
あれは偶発的事故だし、俺は少しも体に触ってもいないし、ただかわいい寝顔を見ただけだから、あそこぐらいまでなら大丈夫だよなとホッとした。
ヒカリの部屋のドアをノックをすると「はい、どうぞ」と力のない返事が聞こえたので部屋に入ると、彼女はベッドの中で起きているが半目の状態でまだぐったりとしている。半病人の状態だ。
俺は「今朝のことは全て忘れるんだ。余計なことは言わないでおこう」と自分の顔を軽く叩き、当たり障り無く
「えらくきつそうだけど、体の方は大丈夫、お薬でも持って来ようか」
「大丈夫でよ。久しぶりに第三形態の半獣に変身したので、かなりの体力を消耗してしまったのでこのとおりなのよ」
「へぇーそうなの」と俺は軽く相槌を打ったが、変身のことはどうでもよかったけど、上手く話題が朝の件から変わってくれないかと彼女に変身について詳しく聞くと
・第一形態の女子高生の姿が普段の姿であり、体力を消耗しないこと
・変身は第一から第三形態まであり、体が大きくなればそれに従って体力も消耗し、特に第三形態の半獣は体力がむちゃくちゃ消耗し次の日は起きられないこと
・自分はバンパイアの系統だから特に朝は弱く寝起きが悪いこと
・日中も日差しが嫌いなことや逆に夜や暗く湿気のある所を好むこと
等々とまるで映画の吸血鬼と同じだった。
そっか、なるほどそれで、昨夜は掃除したての明るくきれいな部屋じゃなくて物置状態の俺の部屋に来たのか、美人局ではなかったのかと勝手に納得し、本心は毎日でも部屋に来てもらいたいが、今朝のようなことが続くと心労が嵩むし、母に見つかると変な誤解を招くので、
「今日中に遮光カーテンをするから今夜からは自分の部屋で寝て下さい。ほかに俺が出来ることがあれば何でも言って下さいね。
それで、ちゃんと朝ごはんは食べたの、お腹が空いてない、お昼はどうする?」俺もそろそろお腹がすいたので尋ねると
「朝はずーっと寝ていて食べていませんので、お昼ご飯は、もちろん、食べます」と彼女は目を見開いて明るく笑った。
それから、俺が彼女に栄養剤をあげるとグイッと飲み干し、1階に下りて来て母が作ってくれていたお昼を2人で仲良く食べながら午後から何をしようかとか、通っている学校の話をしたり、「好きな物は」と聞くと「レバー」、「嫌いな物は」と聞くと「ニンニク」と、ただ2人で何気ない会話をしているだけだったが、自分でも素直でかわいいヒカリが好きになり始めたことには気づいていた。




