3-2-1
3-2-1 9月19日日曜日
ピポピポピーとけたたましく目覚ましが鳴ったが、今日も朝7時だった。
昨夜はあのまま床で寝てしまったみたいだ。夏風邪をひかないようにと薄い蒲団がかけてあった。たぶんヒカリが起きた時にでも掛けてくれて、それから自分の部屋に戻って寝たのだろうが、その時にでも俺を起してくれればよかったのに・・
その彼女は今頃はいつものように熟睡しているだろうか。すると1階から
「平ちゃん、早く起きて下さい。朝ごはんよ」と勝ち誇ったような彼女の声が、
そういえば朝早くから1階が煩かったけど、もしかして・・と直ぐに飛び起きて慌てて隣の部屋を開けてみるとベッドには誰もいない。
「しまった。先に起きられたか」と急いで下りていくと、彼女が珍しくちゃんと制服に着替えまでも済ませて食卓に座っていた。
「おいおい、嘘だろう。何かの間違いだろう」と自分の顔を叩いてみたが、夢ではなかった。こんな事は初めてだ。
「平ちゃんの寝坊助、私はちゃんと早起きして朝ごはんの用意を手伝ったのよ」と俺の驚いた顔を見て偉そうに宣っている。
俺よりも年上なのに、まるで子供のようにニコニコしている。
「はい、はい、今日は俺の負けです。お姫様。でも、明日はどうかな?」と俺も笑ってみせた。
でも、昨夜の疲れた感じは取れているみたいだしニコニコと朝から元気が良さうな彼女の顔を見ると俺は悔しさなんかよりも、なんだか楽しく嬉しくなった。
ヒカリが早起きしたので今日は機嫌のいい母が俺にごはんをよそい食卓に着き皆が食べ始めると、さっそく彼女の今日の予定を尋ねた。
彼女は今日も何処かの大学の説明会があるとかで朝早くに家を出なければいけないと白々と嘘を答えていたので、俺は内心で可笑しかったが、日曜日だというのにまた仕事か、彼女も大変だなと感心した。でも、もしかして、異世界でも休日出勤は何時もの事だろうか、それだと体が持つかなと心配だった。
次に彼女が昨夜の帰りが遅くなった理由を上手く母に話しているが、やっぱり今度も色々苦労して作った嘘で答えていたので、俺は彼女が嫌いな嘘をつかなくてはならない事が余りにも可哀想になり、
「そんな事より、俺、個人戦に出られるよ」と横から話題を都大会の話に変えてやっると、
「そうそう、平助は勉強しないで剣道の推薦で大学に入る気よ、それも特待生でね」と母が昨日の俺との話をしだすので、
「聞いた話だと平ちゃん、剣道は強いらしいので、もしかすると大学に入れるかも。これで、このまま勉強しないでも大丈夫よね」と母を喜ばしていたが、今の俺は武道大会の事しか考えていなかった。
久しぶりに楽しい会話が続いた朝食が済むと、俺と彼女はそれぞれ自分の部屋に戻ったが、直ぐに彼女は出かける用意をして俺の部屋に来ると軽く抱き付いて
「さっきはありがとう。おばさんに嘘は言いたくはないけど・・」と、すまなそうにしていたので
「いいよそんな事。全部分っているよ。君の嘘は仕方のない事さ。でも、いつか本当の事で明るく笑える日が来るといいね」と労うと
「あらっ、私のいない間に平ちゃんは少し大人になりましたね」と女子高生の姿のままで言うので
「おいおい、言葉と姿が合いませんよ。それは大人の姿の時にでも言わないとね」
「それもそうね。それで、今日も遅くなりますけど、心配しないで下さい」と、俺はもう少し抱きしめていたかったけど、彼女は俺の気持ちをよそに被害にあった勇者の所へ出かけて行った。
「あぁぁ、もう行ちゃったか。今回は時間がないのでもう少し一緒にいたいけど」と部屋を確かめると忘れずにちゃんとビールの空き缶は持っていたようだ。
どこかで大人に変身して捨てるのだろうか、家じゃだれもビールを飲まないのでこのまま置いておくのもマズイし、俺が持って行く訳にも行かないので助かった。
「でも、ヒカリとはこうして上手くやれるのに、2学期になっても同級生の女生徒にさえまともに会話ができない。まだまだ重症って事かな。ヒカリが言うように俺って大人になったのかな。少しはどうかしないと後々大変だな」と、その後直ぐに俺も彼女の後を追うかのように練習のためにいつものカバンを持って家を出た。




