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そうこうバタバタするうち、気が付くとお昼になっていた。
「こんには、お久しぶりです、おばさん」
「はーい、久しぶり光ちゃん、元気だった。こんなに大きくなって」
玄関から若い女性の声がするとその声に応じて母の声がした。
従妹のの光ちゃんが着いたみたいだ。
俺は、掃除していた2階から下りてどんな娘だったかなかと確かめると、どこから見てもさっき公園で会ったかわいい女子高生だった。
「久しぶり平ちゃん、元気だった?」
「あぁ、元気、元気」
彼女から馴れ馴れしく挨拶してきたが、母の前で彼女と揉めるのはマズイし、自然に装うとして答えたつもりだが、俺の返事は無愛想が丸出しだった。
「さぁ上がって、もうこんな時間、お昼ごはんまだでしょ」
母が彼女に家に入るように進めると、彼女はお土産と大き目のカバンを持ってまるで親戚の家に遊びに来たみたいにのこのこと家に上がり、早速、母と家族や学校のことを楽しく話しながら母が用意していたお昼を食べ始めた。
「じゃ、今のところ1週間こっちにて受験する大学などを見て回るのね」
「そうです。おばさん。よろしくお願いします。それと、これ、お土産です」
「地下鉄の乗換えとか分からないでしょうから、平助、ちゃんと連れて行ってあげるのよ」と母から言われて「はい」と空返事をすると
「平ちゃん、今日から1週間よろしくね」とニッコと俺の方を向き笑うとさすがにかわいかった。
気が付くと彼女がお土産として地獄温泉まんじゅうを母に手渡し、気まずくお昼をもくもくと食べていた俺にもいつの時代のお土産かと思うような地獄の鬼ストラップを渡し、そしていつの間にか俺が彼女のお供の助さんになっていた。
昼食後に物置状態の2階の俺の部屋に上がり、狭い空間に2人向かい合って座ると彼女が俺の目の前に紙を広げて、さっさと説明し始めた。
「もう一度確認しますが、私がお試しモンスターの森ヒカリです。
それでは、勇者様、ご契約の確認をしましょうか、ご契約の内容を大まかに説明しますと、1週間のお試し期間が無料となっておりまして、お試しモンスターは夜の1日30分間利用可能です。
ご不明な事がございましたら仕様書を再度お読み頂くか又はその都度質問して下さいね」と慣れた口調で手短に説明するが
「おいおい、分からないことは全部だよ。何がどうなっているのか説明してくれよ」
「だから、仕様書をちゃんと読んで下さいと言っているじゃないですか」とまるで口論のようになっていた。
彼女は俺が仕様書を読んでいる前提で話してくるし、俺は未だに理解していない。2人の話がちぐはぐで合わない。彼女が俺の態度を不思議に思い部屋を見渡すと2人が座っている部屋の状態にやっと気づいて
「で、勇者様、仕様書はどこですか、どこかにしまわれているのですか」
「この部屋のどこか。俺にも分らない。だって、君に部屋を空けるために・・」
「えっ、もう、勇者様ったら」と目を丸くして呆れていた。
「分かった、分かったから、首筋が寒くなるのでその勇者様は勘弁してくれないか。平助さん、平助、平ちゃん、助さん、やっぱ平ちゃんでいいから」
「では、平ちゃん。期間が1週間しかございませんので、早速、今日の夜からしましょうか」
「しましょうかって、2人で夜に何をするの」
「はぁ、勿論練習ですよ。私がモンスターに変身し相手をしますから剣と盾を使って練習を」
「剣と盾の今日の分は使ったけど、夜はどうしようか」
「はぁ、もう、勇者様ったら、全然仕様書を読んでいませんよね」
今朝、ふざけて今日の分のお試し30分を使ってしまった小さい剣と盾を見せると、彼女はこれは駄目だなと呆気にとられていた。
メールの着信音が鳴ったので発信元を確認すると早速大会本部事務局からだった。直ぐに開くと
「お試しモンスターのご利用、誠にありがとうございます。
お試し期間は本日から1週間となっております。
なお、くれぐれも日中のモンスターには手を出さないようにお願いいたします」
「日中のモンスターには手を出さないようにってどういうこと」と
彼女に本部事務局から来たメールを見せて尋ねると
「スケベ心で手を出すと、かなり高く課金されるから注意して下さいね」とニコニコと笑いながら忠告されたが、
俺は、その時はどう言う意味だか分からなかったが課金と言えばスマホのゲームみたいなものかと思った。
それから、2人して仲良く物置状態となっている俺の部屋の掃除をしながら、彼女に色々質問をしてみるとそれぞれ答えてくれた。
・大会本部が次回大会のために勇者を鍛錬させるために参加賞をくれたこと
・彼女が異世界の高校生で、夏休みのバイトでこちらの世界に来ていること
・モンスターのお試し期間は延長できるが延長する場合には別料金になること
等々少しずつ俺の疑問が解けてきた。
その後、俺の部屋は少しきれいになったが最後まで仕様書は出てこなかった。