2-5-3
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家に帰ろうと駐輪場で自転車に乗ろうとした俺にサクラが話しかけてきた。
「ごめん平助、家に帰る途中で寄り道したい所があるんだ。それで、お昼少し遅くなるけどいいかしら、もちろん平助も一緒に付いて来てくれるでしょう」
「もちろん、いいけど。どこに寄るの」と尋ねたが
「それは、黙って私に付いて来ればいいの」と彼女は自転車で先に走り出してしまった。
俺が急いで後を付いて行くと、最初は家に帰る道と同じだったが、途中いつもとは違う道へ曲がると、家の近所ではあるが俺があまり知らない路地に入り、古い大きな家の前で自転車を止めると何も言わずに下りてしまった。
その大きな家は古い道場だった。中では子供達がまだ剣道の練習をしていたので、声が聞こえてきた。
「平助、覚えている、この道場。私達が小さい頃通っていた道場よ。
そして、ここが私の練習が終わるのを貴方が待っていてくれた場所」と教えてくれたが、俺はよく見ても直ぐには思い出せずにぼーっと立っていると
「じゃ、今度は私達がよく遊んだ場所にでも行てみる」と訊いてきたが
「いやいいよ、ごめん、たぶんそこに行っても無駄だから」と断った。
すると、彼女は少し悲しそうな顔をみせたが
「今は無理に思い出そうとしなくてもいいわ。ただ知っていて欲しかったの、2人の楽しい思い出の場所を」と、また彼女は自転車に乗ってどこかに向かったので、また俺は彼女に付いて行った。
今度は小高い公園に着くと彼女は自転車を止め
「ここで、終わりよ、少し歩きましょう」と自転車から下りたので、俺も彼女に付いて大きな木まで歩くと、木の下で手を繋いで並んで街を見下ろしながら
「よくこうして、2人でぼーっと見ていたわね。そして2人の将来を誓ったわ。
覚えていますか、貴方が私に大人になったら結婚して下さいって、酷く照れながら頼んだわね。そして私が恥ずかしそうにこちらこそお願いしますって。
また、こうしてここに来られるなんて幸せね」と少し涙目なったので、
「ごめん、よく思い出せなくて。でも、2人の楽しい思いでは、これからまた作っていけばいいだろう。だからまた戻ってこいよ」と彼女をギュウと抱きしめたが、俺にはそれ以上の言葉が出なかった。でも、彼女にはそれで十分だったのかもしれないと思った。
家に帰ると少し遅めのお昼を食べて、彼女はレポートの作成のために2階の部屋に篭った。
俺は、午後の練習もなくなり少し時間ができたので部屋でする事もなくなり、彼女との約束を破って赤いカバンをきれいにし始めてしまった。
最初は汚れていた外をタオルできれいに拭き、次に中もきれいに拭くとマジックで書かれたN-SAKURAの文字が浮かび上がった。
「N─サクラだ」と、確か彼女の名前は佐倉だ。じゃNは望のN。
「このカバンの持ち主はサクラだったのか」とやっと自分の力で思い出したが、自分がそれを今まで思い出せなかったのが悔しくて涙しか出なかった。
直ぐに自分の部屋のありとあらゆるアルバムをそこかしこから探し出し、俺と彼女が写っている筈の写真を探したが、やはり1枚も見つからなかった。
だが、不自然なポーズで俺1人が写っている写真が意外にも多く、それに俺の位置が写真の中心ではなく半人分ずれていた。
「きっと、俺の隣に1人いたんだ、その人だけが消えているんだ」と気付いた。
でも、そこには誰が写っていたんだろと考えたが、やはり思い出せなかった。
何か分らないかと写真をじっくり見ると、1人の写真の俺はどれも楽しそうに笑っているし、そうだ、隣は仲のいい子、いや、きっと好きな子がいたんだ。
「そうか俺の好きな子はサクラだったんだ」と初めて気付いた。
でも、なぜ写真から彼女だけが消えているんだ。何故だ。
「私を思い出して下さい」やっとその意味するところが分った。
彼女は俺の記憶から消えたんだ。否、消されたんだ。南達の記憶はちゃんとあるのに、じゃ、なぜ彼女だけ消されたんだ。
その理由は簡単だった。彼女が元々異世界の人で故郷の異世界に帰ったためだと俺は直ぐに気が付いたが、その怒りはどこに向けて良いのか分らなかった。
俺は知らない間に記憶を消され、思いでも消されていたなんて、異世界への召喚や送喚を単なる旅行だと笑って楽しんでいた自分が許せなかった。
俺のスマホにはヒカリとの仲のいい写真が待ち受け画面になっている。
これも知らない間に、俺の気が付かない間に彼女がいなくなってしまうのか、
そして俺はそれを気付かないまま生きていくのか。
じゃ、ヒカリも俺を忘れてしまうのか、それともサクラのように苦しみながら生きていかなければならないのか。
その答えは今の俺に出せなかったが、俺は異世界に行くのは何故か今度で最後にしようと決めてしまった。




