2-3-1
2-3-1 8月23日月曜日
ピポピポピー、朝6時に目覚ましがいつものようにけたたましく鳴り、すぐに目が覚めると、久しぶりにベッドでの目覚めは気分がいいし、背中も痛くない。
「平助、朝ごはんできているわよ。早く下りてきて」と1階から望の声がした。
「はい、今行きます」と答えると、まるで新婚さんのようだ。
そうだ家には姑もいたなと苦笑いしながら服を着替えた。
朝から、母よりも彼女の声で起されると気分がいいというか、やる気が湧く。それは当然かもしれないが、彼女は今日も早起きをして朝食を作ってくれたみたいだ。
美味しい朝ごはん勿論だが、早く彼女の顔が見たいと1階に急いで下りると、今日も朝食が豪華だ。きっと彼女は早起きをして作ってくれたに違いない。
俺が今まで食べたこと無い料理まで作ってある。
こんな日が続くとその後の落差が心配だが、そんなことは全然気にしていない姑も既に食卓に着いている。
「朝起きてみたら、冷蔵庫にいっぱいスイーツが冷えていたけど、どうしたの」と母が不思議がっていると望が朝食の準備をしながら
「昨夜、南さんから頂いたので冷蔵庫に入れときました。おば様、どうぞ食べて下さいね。平助、はい、ごはん」と俺にごはんをよそうと食卓に着き、3人で仲良く食べ始めると、一口目で美味すぎる。
好き嫌いが酷い俺がすんなり美味しいと思う事は稀であるが、彼女はその稀である。すると、
「母さん、こんな日がいつか来るとは思っていたけど、本当に幸せ。3人家族もいいわね」と昨日と同じようなことをまた言い出すので、
「じゃ、おば様、私が東京の大学に受かったら、ここに住んでもいいですか」と彼女が当然言い出すので、俺はいつものパターンかと思っていると
「もちろんいいわよ、どうせなら明日からでもこちらの高校に通ってもいいのよ」と今は夏休み期間中にもかかわらずとんでもないことを言い出すので、
「母さん、それは無理だよ、気が早いって、まだ夏休みだし、もう直ぐ2学期が始まるんだよ」と俺が苦い顔をすると
「そうだけど、どうせ長く住むのなら早い方がいいと思ってね、そうでしょ望ちゃん」と彼女に同意を求めたが、さすがに彼女も
「それは、ちょっと。色々有りますので」と困惑していたが、母は彼女のことが相当気に入ったようだ。たぶん早起きで家庭的な娘が好きなんだろう。
すると、母は何かを思い出したように、食べるのを止めて
「母さん、今日は仕事で少し遅くなるので夕飯は2人で先に食べていてね。おかずは・・」と言いかけたが
「おば様、私、午後は時間が有りますので、夕飯は作りますよ。あっ、それと簡単でいいなら平助のお昼も作りますよ。平助もそれでいいかしら」
「俺はそっちの方がいいけど、望ちゃんの料理は美味いしね」
「そうね、それは助かるわ、望ちゃんがそう言ってくれるなら、ぜひお願いするわ。これで心配しないで仕事が出来るわ。ありがとう、望ちゃん」とあっさりお昼と夕飯も彼女に頼んでしまった。
「望ちゃん、大丈夫なの、時間とかあるの」と俺が訊くと、
万遍の笑みを浮かべて「もちろん、料理は得意です」と答えたが、同じ女子高校生なのにヒカリと比べてこうも違うものかと思った。
その後も料理や洗濯が好きだとか、母が好きそうな会話が弾み今日の朝食も楽しく済ませることができたが、なぜだか俺の好みなどは一切尋ねなかった。
今日も自転車の2人乗りでいつもの剣道場へ向かいながら望に話しかけると
「ごめんね、母さんが無理なこと頼んで。そうだ、帰りに駅前の商店街でも寄って帰る? 俺も今夜のアイス買わなきゃいけないし」
「そうでした。今夜も南さんの部屋ですよね。そうそう、アイスのお金の方は大丈夫ですか、平助はバイトしていないんでしょ」
「それなら大丈夫、母さんからプールに行く時に貰ったお小遣いがアラタのお陰で大分余ったから、これもアラタ様々かな」と彼女はこんなところにも気が利くのかと感心した。
「じゃ、帰りに商店街の方へお願いします。それで、こちらの食材って向こうの世界と同じでしたよね」
「少し前に向こうの宿で何日か食事はしたけど、美味しかったのでたぶん同じだと思うよ。そうだ露天商には俺が初めて見るような変わった果物もあったけど、こちらの世界にもあるのかな」
「変わった果物、何かしら、どんな果実でした?」
「そう、黒くって丸くって小さくって」と俺が答えると
「それじゃ、分らないでしょ」と俺の腰に回している手をギュッと締め付けた。
「じゃ、赤くて丸くて大きいやつは」と俺がまた答えると
「それも、同じでしょ」と俺の腰に回している手をまたギュッと締め付けた。
こうしてじゃれ合っていると、俺は以前何処かで彼女とこんなことをしていたような感じがした。そのせいかもしれないが、夏朝の太陽の下でキラキラ輝く彼女の魅力は日差しを嫌うヒカリのそれとはまったく異なり俺を引き付け始めていた。否、もう完全にその魅力に負けてしまい別の意味での虜になっていた。




