2-1-1
2-1-1 8月21日土曜日
次の朝、ピポピポピー、けたたましく朝6時に目覚ましが鳴り、手で目覚ましを探しても見つからない。いつものように目が覚めると今日も床の上だった。
「あぁ、こう毎日床だと背中が痛いな」と右手を動かしてみると、痺れは引いているみたいだったので1階に下りると、いつものように母の作ってくれた朝ごはんを静かに2人で食べて、母は後片付けで、俺はアラタとの朝の練習のために玄関を出ると、勉強会に向かう南にいつものように出くわした。
「平助、どうかしたのここのところ毎日、朝早くからアラタさんの家に出かけて剣道の練習だなんて、以前は毎日家でゴロゴロしていたのに、何かおかしな物でも拾って食べたの、それとも変な病気」
「おいおい、俺は野良犬か、俺にも目的が出来て少しやる気が出たんだよ」と本当は借金の返済の為に頑張っていることは内緒にした。
「そう、それならいいけど。ちゃんと彼女と連絡を取っているの」との問いかけに
「当たり前だろう、ご心配なく」と嘘をついてしまったが、やはり一晩寝ると彼女に対する感情は少し良い方へと変わっていたが、まだ彼女に騙されたと言う思いは強く残っていた。
「そろそろ、あんたも大学入試の勉強を始めないと彼女だけ合格するわよ」と南から釘を刺されてしまったが、その時俺は、彼女とはヒカリそれとも光のどっちらの方だったのだろうかとは気にもしなかった。
大学受験か、このままじゃヒカリは大学生で俺は予備校生、勉強をしないで剣術ばかりのこんな生活だと駄目だなと自転車で剣道場に向かいながら、特に1人になると彼女が傍にいない毎日が辛くて変な悩みが湧いてくる。
ヒカリは本当に帰ってくるのだろうか?
ヒカリは本当に俺を騙したのだろうか?
何のために剣術の練習なんかしているのだろうか?
俺の将来はこれでいいのだろうか?
今日も悩みながら剣道場に着くとアラタはニコニコしているが、楓さんの表情はいつになく暗かった。
「平助、お前はなんと運がいい、話によると今は調査員は夏休み期間中でお休みだそうだ。それで急遽代役が調査しに来たそうだ。すまない、彼女をこっちに連れて来てくれ」と楓さんが大会事務局から派遣された調査員を連れてくると、俺が思ってもいなかった若い女性が奥から現れた。
「はじめまして、調査員補佐の佐倉望です。急な調査にご協力頂き感謝します。どうぞよろしくお願いします」と頭を下げた。
「どうもはじめまして、中村平助です」と年齢も身長も俺とそう変わらないが、ほっそりとした清楚で綺麗な女性が挨拶してきたので、てっきり脂ぎったオヤジが来るものと思っていたので少し嬉しい方へ驚き、こちらも初対面の挨拶をした。
「アラタ様と元大会事務局長が推薦された方だと聞きましので、どんな方かと思っていましたが、意外と若くて小柄の勇者様ですね」と彼女が言ったので
おいおい、君の方も若くて小柄だと言い返したかったが、その美しさに見とれてしまっていたので
「よく、そう言われます。この前は従者と間違われました」とニコニコして答えてはいたが、でもこの女性以前会ったような、それとも誰かに似ているような、それで俺を推薦してくれた元大会事務局長って誰だと思った。
「それでは5日間の調査、よろしくお願いします」と彼女は同意書なる書類を出して俺に名前だけを記入させると、他には何も言わずに剣道場の隅に楓さんと一緒に座って俺達の練習を見学し始めたが、2人は顔見知りなのか仲良く話していた。
俺は「実力の調査をします、まずはお手合わせでも」と彼女がかかってくるものとばかり思っていたので、何か気が抜けた感じがしたが、彼女は、練習を始めてからいつものように俺が床に大の字になって倒れるまでの間、隅に座り熱心にメモを取りながら見ていた。
アラタが冗談で床に大の字に寝ている俺に向かって「女に3万ポイントも貢ぎやがって、この多額債務者が、大会で勝って綺麗な体になれ」と罵ると
「勝ってやる、払ってやる」と俺も闘志も燃やして立ち上がってアラタに向かっていこうとしたが、また床に寝てしまう場面では彼女のメモの取り方と顔色が少し変わったが、楓さんは少し笑っていたが何処かまだ暗かった。
「朝の練習はここまでだ、午後から対勇者用の練習を始める。いいな平助。それで悪いが、調査員の君は午後からは席を外してくれないか」とアラタが彼女に頼むと
「分かりました」と答えた。
俺は、いつものように楓さんが冷たい水と救急箱を持って来てくれるかと思っていいたら、今日はどうしたことかアラタと剣道場から一緒に出て行ってしまったので、呆然としていると
「それでは平助様、そろそろ私達も一緒にお家に帰りましょうか」と調査員の彼女が俺を誘ってきた。
「おいおい、君は本気で俺の家まで付いて来る気か」と冗談かと思って尋ねると
「調査には勇者の実力だけではなく、当然勇者の素行調査もあるのです」とニヤリと答えると、アラタの広い駐輪場まで付いて来て、俺が自分の自転車に乗ると慣れた感じで後ろの席に座って俺の腰に躊躇なく手を回すと
「早く帰らないと、おば様の美味しいお昼が冷めちゃいますよ」と俺を急がせた。
これは冗談じゃなく本気だと確信した俺は、
「それじゃ急ぎますか、でも、ごめん、少し汗臭いけど」と謝ると
「汗臭いのは勘弁して欲しいけど、久しぶりだから我慢します」と笑っていた。
他の女性と自転車の2人乗りをヒカリに見つかると逮捕しますと言われていたけど、ヒカリはいつ帰ってくるか分らないし、彼女は調査員なので家まで歩かせる訳にもいかないし、今日は仕方がないかと2人乗りで出発した。




