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奥手な勇者の恋の相手はモンスター  作者: ゴーヤウリウリ
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1-0-2

1-0-2 宿のある街の露店が並ぶ通りにて

 支払窓口で手渡された銀貨1枚をポケットに、参加賞をいつも使っている赤いカバンに入れてぞくぞくと換金手続に並ぶ勇者達を背にし、今朝から赤くなっている首筋を掻きながらこの1週間泊まった宿のある街に歩いていると、蚊等の虫の群れに出くわし結構刺された。

「こう、外ばかりいると虫刺されが酷いや、次回来る時は虫除けスプレーが必要だな。後は痒み止めにのど飴ってとこかな」

でも、倒した相手が小物2匹か、スライムの他にあと1匹はどうしても思い出せないな。いつ倒したのだろか。

「あぁ、もう少し多く倒して多くの賞金を手に入れたかった」


 でも、異世界への召喚かぁ、終わってみればお約束の美女との出会いや恋愛もなく、たった1週間間で終わりだなんて、急に召喚されて参加説明会や剣と盾の訓練で5日を費やし、実戦に出たら2日目の朝に魔王があっさり破れるなんて、こんなのありか、冗談じゃないぜ。どこかの物語とは大違いだ。

 参加説明会では、手柄を立てれば夢のような立身出生が、魔王を倒せば後々どこかの国王にでもとか色々甘い事を言われたけど、そうは上手くはいかないよな。

結局は、この有様、この小さな銀貨1枚で何が買えるんだ。

コンビニかガソリンスタンドで夏休みのバイトでもしておいた方が良かったかな、こんな端た金じゃ夏休みのバイトにもなりゃしないや。


 街に着くと昨日までの閑散とした風景とは違い、既に多くの露店が軒を並べ店主が呼込みをしている。まるで田舎の祭りのようだった。

「勇者さん、何かいりませんか」

「そちらの勇者さんはいかがですか」

「勇者さん、お土産はいかがですか」

 気がつくと周りには召喚されたと思しき勇者が大勢歩いているが、ある者は大金を手にしたのだろうかニコニコ顔に、ある者は俺と同じで暗い顔にみえる。


 日頃何もせず部屋でゴロゴロしているので、さすがにここまで歩くのは疲れるし、足が痛い。次回は自転車も必要かな。

それより、まずは家に帰ったらそろそろ運動でも始めるか。

 それにしても大勢いやがる、俺の方が換金は早かったのに、あいつら俺よりも早く来やがって臨時バスでも出たのか、こんなことなら参加説明会でよく話を聞くのだった。そうすれば足も痛くならずにすんだのに。

 でも、今さら愚痴を言っても仕方ないか、次回からはちゃんと説明会で話を聞かなくては。まぁ、それはそれとして、母にお土産、お土産と。


 多くの露店が立ち並ぶ道をガヤガヤ騒がしい人ごみの中を歩いていると、元の世界では珍しい果物を見つけたので、ポケットとから銀貨を取り出し、

「すみません、この果実ならこの銀貨1枚でいくつ買えますか」

「この果物なら4個、そっちなら2個だな。勇者さん、欲しいものは早く買わないと売り切れるよ」

「まぁ、小物2匹の対価だとこんなものか」でも母さん、こんなもので喜ぶかな、もし食当たりになっても大変だしな。もっといいものはないかと道の真ん中で一人佇み悩んでいると


「そこの勇者さん、何かお探しでは、うちにはご覧のとおり安くていい物がありますよ」と怪しげな露店商が声をかけてきた。

 その露店には古い剣、武具や甲冑、魔法道具などが置いてあったが、こんな古い剣が金貨10枚、こんな傷だらけの盾が金貨5枚などと意外にも結構値が張っていたので、銀貨1枚では無理かと思ったが試しに尋ねてみると

「この銀貨1枚で買えるものは何かありますか」と恥ずかしそうに握り締めた小さな銀貨1枚を掌に載せて露店商に見せると、その男は意外にも台の下からゴソゴソと福袋と書いてある薄汚い袋を出してきた。


「お若い勇者様、これなどは如何かな?」

どうみても昔からの売れ残りと思えたが銀貨などの貨幣は国外持出禁止になっているので、明日送喚される身でそのまま持っていてもしょうがない。

「中身に持出禁止の物は入っていませんよね?」

「はいはい、勿論ありませんよ。あちらの世界に帰られても大丈夫です。

それに、これが最後の一つですよ」とニヤニヤ進めてくる。

 最初は少し迷ったが、どんどん人ごみが増えてきた。

俺は、早く何か買わなくてはと焦り出し、小さい銀貨1枚ではこんな物しか買えないのか、でも仕方がない。

中身は宿に戻って確かめればいいかなとそれを買ってしまった。

 そして、その薄汚い袋をカバンに入れ、銀貨1枚を使い果たし無一文になってしまった俺は、露店が並ぶ賑やかな街をお腹を空かせて一回りして宿へと戻った。


 その夜の宿では、ある勇者は大物を倒して得た賞金の金貨を見せびらかし、ある勇者は命かながら逃げた話など飲めや歌えの大盛り上がりだった。

 俺も浮かれた話などをして盛り上がりたいけど、なんせ倒したのが小物2匹、それに無一文なので勇者には無料の夕飯だけを食べて部屋に戻ると、明日朝一番で送喚されるというのに、腹が満たされた上に半日歩き疲れたせいかカバンに入れた参加賞と福袋の中身をよく確かめもせずに枕元に置き、ベッドに横になると直ぐにそのまま寝てしまった。


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