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試合開始まで高まる気を落ち着かせながら軽く朝飯を食べて宿を出ると迎えの車で試合会場へ向かった。
まだ、開場1時間以上も前なのに入場口には観覧希望者の列が複数長く伸びていた。
「おぉ並んでいる、並んでいるぞ、昨日の朝と大違いだ。あいつら他に楽しみはないのか?」
「本当に冬の朝と言うのに活気に溢れているな、バンパイア族は寒さに弱い筈なのに信じられない」
「でもこれが賭けたお金の為だと思うと少し悲しくなるな、お金は最強って事かな」
「平ちゃん、そんな事は言わないのよ。皆私達を応援に来て下さったと思わないといけませんよ」
「そうだな、俺達の為に朝早くから着てくれているのだな。感謝、感謝だ。それに国の収入も増える、感謝、感謝だな」
「おい平助、さっきから国の収入の事ばかり言ってるぞ、何か別にあるのか?」
「あぁそれか、余り気にするな。ヒカリから俺に大きな宿題が出ただけだ」
「宿題って、小学生じゃあるまいし、高校生のお前にか」
「もしかしたら、バンパイア族の娘と結婚するとお前にも出るかもな」
「また、それか・・」
先導車に続いて俺達が乗った車がその長い列の横を併走して通ると観覧希望者は手を振り凄い歓声が上がった。
「凄い騒ぎだな、それに試合開場はドーム球場のように大きい。これなら5万人は軽く入りそうだな」
「そうね、国あげてのイベントだし、それに久しぶりに私が出場するからそれぐらいは入ってもらわないとね」
「お前はスーパーアイドルかよ?」
「あら私は昔CDやDVDも出しているのよ。知らなかったの?」
「それは本当か、嫁が元アイドルとは少し嬉しかな」
「バカね冗談よ。でも写真集は出ている筈よ」
「おいおい、俺にはそちらの方が嬉しいぞ、勿論水着はあるのだろうな」
「一緒にお風呂に入っているのに、水着が良いとは男はおかしなものね」
「俺はビキニよりワンピース派だな」
「本当スケスケの派手な下着より、清楚な下着が好きな平ちゃんらしいわね」
「すみませんが姫様、夫婦の秘事は私のいないところでお話して下さい、反応に困りますので」
「ごめんなさい、ついいつもの癖で」
車が会場に着いて俺達が顔を見られないように裏口から選手控え室に入り、装備品などを準備していると、監督やスタッフも集まりミーティグが始まった。開催セレモニーまで後1時間だ。少しずつ緊張が高まってきた。
「出場選手の方々は各自ウォ-ミングアップなどをしながら聞いて下さい。それではご承知だとは思いますが簡単に試合の説明します。試合時間は10分間。親善試合なので延長及び再試合なしの引分けです。3分前にアナウンスがありますので注意して下さい。勝敗は相手を倒すか、相手が棄権した場合と審判が試合続行が不可能と判断した場合等です」と注意事項をスタッフから説明を受けると
「勝敗に関しては武道大会と同じだな。でも試合時間が10分か意外と短いな」
「勇者が魔導を全力で使えるのが10分ぐらいだからよ、それに一応親善試合だから、死にものぐるいで戦わないわよ」
「確かにいくら優れた勇者でも10分も魔導を使えば体力はなくなりますしね、案外10分はこちらも助かるかも知れませんよ」
「そうだ、対戦相手は決まりましたか」とヒカリが準備をしているスタッフに尋ねた。
「はい、抽選で第1試合は姫様対特捜本部長、第2戦はアラタ様対佐々木昴、第3戦は平助様対武道大会優勝者となっておりましたが、こちら側から第1戦について姫様のご指示通りに異議を申しております」
「分りました。主催者が異議を認めて第1戦が私対武道大会優勝者、第3戦が平ちゃん対特捜本部長に変更になる筈だから、平ちゃんは第3戦を確りお願いしますね」
「はい、頑張りますって、既にお前が決めているのか、さすが裏の主催者だな」
「それで向こう側はもう会場に来ていますか」
「はい、既に控え室に来ております」
「それで、到着後の足取りはいかがでしたか?」
「はい、飛行機で本国に到着し当会場への到着は午後でした、それから休憩を取り夕方過ぎには練習を終えております。練習時間は3時間ほどで、直ぐに全員おやすみになられました」
「そうですか、3時間ですか。あの方達ですとまぁまぁ時間が取れましたね」
「はい、そのようです。それでは、9時からの開催のセレモニーがあと10分で始まりますので、それまで体調を整えてお待ち下さい」
「失礼します」と別のスッタフが控え室に入ってきた。
「こちら側の異議を認めて対戦相手が変更になりました。これで正式な対戦相手が確定しました。第1戦が姫様対武道大会優勝者、第2戦がアラタ様対佐々木昴、第3戦が平助様対特捜本部長です、それで第1戦の開始時間は開催セレモニー終了5分後です」
「ヒカリの作戦通りだなと言うか、お前が決めたな」
「まぁ、ここまではね、でもこれからが本番よ」
「すみません、選手の方々はセレモニーが始まりますので、中央の会場までお願いします」
「それではお2人さん、先ずは昴さん達を驚かせに行きますか」と俺が真っ先に席を立った。