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用意された練習場に着くと思ったほど施設は大きくなかった。それに中に入ると天井は低くバレーの試合さえもできそうもなかった。
「この広さしかないのか、うちの学校の体育館より狭いぞ。これじゃ思い切って技は出せない、技を出すとこの施設を一撃で壊してしまう」
「そうだな、壊しでもしてた大変だぞ。やはり急遽お願いしたので無理だったか」と2人で諦めていると
「ご心配は要りませんよ。もう少しお待ち下さい、今から特殊な結界を張りますので直ぐ準備ができます」とスタッフがスイッチを入れメーターを確認すると、俺達の目には余りはっきりと見えなかったが、スタッフが天井や壁に特殊なビームを放つと、その光は天井や壁に当たると粉々に砕け散った。
「アラタ、今のを見たか、ビームが結果に当たって砕けたように見えたが?」
「俺にもそう見えた、俺たちの技があんな風に弾き返されるのかな?」
俺達の話を聞いていたスタッフは嬉しそうに
「その通りです。上手く結界が張れたようですので、好きなだけ技を出しても問題ありません。ただし毒ガスみたいなものはお辞め下さい」と教えてくれた。
「そうか、こんな凄い設備があるのか」そうだろうな、試合会場で技を連発したら観客席まで影響が出るだろうとは思っていたが、これなら人殺しの剣の技も使えるかもしれないが、毒ガスは駄目だとか・・。もしもの事があると死亡者が出るのでそれは拙いかと諦めた。
それから3人は装備品の強度や動きやすさなどを確認しながらお昼まで思う存分技を出し合い練習をしたが特殊な結界はびくともしなかった。
「それにしても平助、お前の剣の形は異様と言うか歪だな」
「このバンパイアの剣だろう、俺もそう思うし、この剣を持っている者はドラマでは悪役だぞ、最期には正義の味方に倒される」
「国宝に何言っているのよ、今の形は変形前だからよ」
「何、この剣は変形すのか? それじゃ戦隊ものと同じじゃないか」
「それを持っている平ちゃんは子供に人気が出るわよ。もしかすると日曜日の朝の番組に出られるかも。まぁ上手く変形できればの話しだけどね」
「今聞いたばかりじゃ、明日の試合じゃ無理だな。それに俺は子供が嫌いだ」
「子供が嫌いなら勇者失格ね」とヒカリが笑っていた。
「そうだアラタ、お前の剣道場にもこの結界を張れないか?」
「おいおい、無理を言うなよ。たぶん凄く費用がかかる筈だ」
「お金の事ならお前は何とかなるだろう? 帰りにでもスタッフに注文しとけよ」
「俺を何だと思っているんだ。お前と同じ高校生だぞ、そんなお金がどこにある」
「そうか、これは無理なのか。これで技の練習がいつでもできると思ったのに・・、残念だ」
「そう言うお前には指輪があるじゃないか?」
「確かにあるけど、あそこで練習して戻ってくると疲れが酷いんだよ、時間は浮くけど
体が着いて行けない」
「そう言うものか、上手く一石二鳥とは行かないものだな」
お昼休憩にヒカリはテレビのニュースキャスターからインタビューを受けていた。
さすがに王女様だ。テレビ局のスタッフの彼女への扱いが丁寧すぎるしヒカリも貴賓を持って答えていた。
お昼を食べながら番組を見ていると婚約者の事を訊かれていたので、俺が出て行こうとしたら周りのスタッフに練習後のボロボロの姿だと不審者と思われるので止められた。このままいつものように近寄って親しげに声でもかけたら不敬罪で捕まりそうだし、試合前に正体が分ると拙いので俺とアタラはまるで逃亡犯のように奥に静に隠れてテレビを見る事にした。その後、インタビューが無事に終了したので控え室に戻ってきた彼女に
「俺達はインタビューに出なくていいのかよ?」
「その他の選手に質問なんてないわよ。上手くPRしたから、これで、明日の応援に沢山人が来てくれるわ」と喜んでいた。
結局俺達2人はこの国ではどんなに人気が合っても彼女の露払いのようなものだと分った。準優勝した時はあんなに凄かったのにと落ち込んでいる俺を見て
「落ち込むな、姫様は別格だ。それにお前は平助なので、脇役の助さんがピッタリだ」とアラタが笑っていたが、黄門様の助さんとは昔からよく言われていたので面白くもなかったが、人気者でいつもチヤホヤされているアラタが文句も言わずに静に隠れているとは、奴は俺より大人だった。