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「平ちゃん、本当にごめんなさい」と正座をしたヒカリがいきなり深々と頭を下げてきた。
俺は、アラタとの攻防の後で疲れていたし、色々な疑問を考えていたので、すっかり朝の酔っ払いの件は忘れていたので、いきなり彼女に頭を下げられても何のことか急には考えが回らず「チュでいいよ」と頬を指差した。
すると、意外にも彼女は、「えっ、少し酔っただけなのに、それはない、それはない」と手を振って拒否した。
俺から知らぬ間に血を吸っておいて、お返しの頬にチュも拒否するなんて、酷い尼だなと思ったが、いつものように本題からずれてきた。
「ヒカリ、全て本当のことを教えてくれないか」と俺は彼女の前に座り手を握って彼女の目を見つめて真剣に訊くと
「私の世界では飲酒は15歳からだし、それで昨日は平ちゃんの告白が嬉しくて、お祝いとうことで自販でチュウハイを買って部屋で飲みました」とかわいく答えたので、おいおい、誰がそんなことを今更訊くかと思ったが、
「そっちじゃなくて、血の花婿の話だよ」と、俺が切り出すと彼女の顔色が変わり
「どうしてそれを知っているの、今まで秘密にしていたのに」と慌てだした。
「それは秘密だ、それで血の花婿って何だ」と尋ねると
「だから、アラタさんは嫌いなのよ」と思いっきり話を逸らそうとするので
「アラタのことじゃなくて、血の花婿ってもしかして俺のこと、どうして俺を選んだの」と訊くと
「平助だから私が選んだの。相手が私じゃだめぇー?」とさらに上目遣いでかわいく答えたので
「そうじゃなくて、俺そんに強くないよ。ほらヒカリちゃんにも負けるでしょ。選ばれた俺はどうすればいいの」
「じゃ、今から強くなれば良いでしょ、私もがんばるから平ちゃんも頑張って下さい」と逆に手を強く握り返され、いきなり頬にチュをしてニコッと笑った。
やった、遂にこの日が来たかと天にも昇る気持ちだった。
しまった、また何かはぐらかされている。
そう感じたが、もうそんなことはどうでも良かった。
どうせ、彼女の虜になっている俺ではこれ以上はきつく言えないし、朝ごはんを食べていないヒカリがそろそろお腹が空いたとダダをこねそうだし、後で南に本当の血の花婿の話を聞くことにして、詳しい話はお昼を食べながらと2人仲良く1階に下りた。
母が用意してくれたお昼を食べながら、ヒカリから詳しい話を聞くと
・バンパイアの結婚適齢期がどんどん早くなっていること
・こちらの世界に来たのは本当は婚活も兼ねていること
・それで友達と情報交換のために夜に外出していること
・結婚の相手はもちろん人間でもいいこと
・もし私が嫌ならアラタが言うように心臓に杭を打てば良いこと
・杭を打たれてもヒカリは死ぬのではなく異世界に送喚されるだけのこと
・血の花婿の話は風化しているので、アラタの言うことは心配しなくていいこと
等々を話してくれた。
でもこれが全て本当かどうかは今の俺には判断できなかったが、アラタが言うように俺に杭を打たれると彼女は灰になるのだろうか、性格の悪い奴だがそんな嘘を言う男ではない。
今までのヒカリの言動を思うと俺と彼女の2人に一番大事なことをまだ隠しているとは確かだが、今の俺にはそれを強くは訊き出せなかった。
午後からはヒカリの朝の罪滅ぼしとしてお昼に涼しく遊べる場所として映画にでも行くことになり、夏の日差しを避けながら長袖を着て深い帽子を被った彼女と暑いの大好き夏男の俺の短パン、袖なしシャツ姿が仲良く街中を歩く姿が異様であった。
映画館に着くと「平ちゃん、今日は寝ないで下さい」とヒカリから注意されたが
上映しているのは夏お決まりのホラーばかりで、普通のカップルは2人してハラハラドキドキを楽しむのだが、本物の半獣に襲われ心臓が止まるぐらいの恐怖を味わった俺とその恐ろしい半獣に変身できる彼女とのカップルではハラハラドキドキはまったくなくコメディーにしか思えない内容の映画であった。
でも、残り少ない時間を2人で過ごすことができたことが嬉しかった。