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仕事から帰って来た母と一緒に3人で夕飯を食べながら、俺が学園では硬派で通し、女生徒から人気があるとか、プラネタリウムで俺がグーグー寝ていて顰蹙を買ったことなどをヒカリが話し出すと
「そうね平助は中学生までは確かにはもてたわ。
バレンタインにはチョコをいっぱい貰って、お返しをどうするか私に尋ねにきたしね。でも、今はどうかしら、
高校に入ってからは家には彼女を連れてこなし、チョコの話も無いわね」
「母さん、余計な話はもうするなよ」と俺が釘を刺すと
「じゃ、もてる平助は放って置いて今度はヒカリちゃんと私と2人でお買い物にでも」と切り出すと母と彼女で、どこのお店に行こうとか、どの服が流行っているとか、どこでお昼を食べようとかなどの2人の会話が弾み、それを聞いていた俺も楽しくなり明るく夕飯を食べられた。
楽しい夕飯の後、今夜も2人でジョギングして公園に行くと既に人影はなく
「平ちゃんはお昼寝をして十分に休養を取りましたので、今日は激しい実戦練習をします」とヒカリが嫌味たっぷりに言い出したが、
楽しいはずのデートを台無しにした俺はすまなさそうに「はい」とだけ返事した。
「平ちゃん、ちゃんと反省はしていますか」
「はい、深く反省しております」と少し暗めに答えると
「私は心が狭いので許しません。罰として次回の計画を早く立てて下さい」と彼女が明るく笑うと、今までの暗い気分がどこかに飛んでいき、また幸せMAXになり
「頑張って、立てさせていただきます」と答えると彼女は大人の姿になり、いつものように練習を始めた。
「今日は既に剣と盾を使っているので、これを使います」と彼女はカバンから警防のような取っ手の付いた短めの棒を2本取り出した。
「これはトンファーといいます。今日はこれで練習をしましょう」と言うので
「どうしてトンファーで練習をするの」と尋ねると
「これは、剣と盾を使う時と同じように両手を別々に使うので両手の運動にいいし、特に攻守が直ぐに入れ替わるので判断力の訓練にもなりますし、それに他の武器が重たいのよ」と最後には本音を漏らしたが
「じゃ、こう持って、こう構えて下さい」と簡単な使い方だけを俺に何度か教えて
「じゃ、始めますよ」と彼女はいつもの棒で上から切りかかってくと
「それじゃ駄目です。こう反転させてこの棒を受けて下さい」と指導してくる。
「じゃ、また始めますよ」とまた棒で上から切りかかってくと
今度は俺が上手く受け止められたのか
「そうでう、そうです。さすが勇者様」とまた上手く褒めちぎる。
以前からヒカリは褒めて人を上達させるタイプかと思っていたが、単細胞な俺にはその練習法が合うのか15分である程度、防御だけは上手くできるようになったので、5分間休憩することにした。
いつものようにベンチに座り、もう慣れたのか隣に座った大人のヒカリを今日は普通に見ることができた。
「今日は全部俺が悪かった。ごめん」と素直に謝ると
「いえ、本当は私の方が悪いんです。私とアラタさんの問題に貴方を巻き込んでしまって。こちらこそ、ごめんなさい」と俺の手を握り締め、大人の顔ですまなそうに謝ってきた。
あぁ、駄目だそんな顔で見つめられると、女子高生のヒカリを捨てて5年後のヒカリを今直ぐにでも選んでしまいそうな自分がここにいることが怖くなり、少し目を逸らし夜空を見上げた。
「不思議だろ、東京の空に星なんて一つも見えやしない」と呟くと
彼女も見上げてを目を凝らすと「でも、ほら」と夜空を指差した。
そこには小さく薄く輝く星があった。
「あぁ、ここからでも星が見えるのか」と俺が言うと
「確かあの星は、科学館で今日教えてもらったんですけど」とプラネタリウムの件を持ち出そうとしたので、気まずくなった俺は、
「さぁ、練習、練習」と俺の方からベンチから立ち上り、残り時間いっぱいまで練習を続けた。
2人で仲良く家に帰り、それぞれ風呂に入って部屋に戻ったが、それほど遅い時間ではなかったので、次のデートの計画をヒカリとしたくて隣のドアを叩くと返事がない。
「ヒカリちゃん、いないのかな」とドアを開けたが部屋の明かりついているが、少し窓が開いているだけで部屋には誰もいなかった。
机を見るとパソコンに電源が入ったままで上蓋が開いる。デスクトップの画像は大人のヒカリのようだったが、今夜は見慣れたせいか気にもしなかった。
急に用事でもできたのかな。いつ出て行ったのだろう。コンビニでも出かけたのかなと彼女の部屋に入りパソコンの上蓋を閉めようかとも思ったが、1人で部屋に入ると彼女の秘密を知りたいあまり、きっとパソコンの中まで見てしまい、最後には、部屋の中までもあら捜ししてしまうほど彼女が好きな自分が恐ろしいかったので急いでドアを閉め自分の部屋に戻った。
部屋に戻りベッドで横になって気晴らしにスマホでトンファーの使い方、お昼に日差しがなく遊べる場所、お昼に涼しく遊べる場所などをまた検索し時間をつぶし、いつもの寝る時間になったので明かりを消したが、今日に限って絶対してはいけない昼寝をしてしまったせいか、いつもの時間には寝つけなかった。
暗い部屋で天井を見ていると無性にヒカリのことがもっと知りたくなった。
あいつに訊こうかどうしようかと迷ったが、唯一彼女を以前から知っているアラタの連絡先を友達から聞きだし明日会いたいとメールすると「やっと来たか、連絡を待っていたぞ」と返事が来た。
これで一つ重荷が取れたのか昼寝をしたにもかかわらずぐっすり寝てしまい、朝方俺の部屋のドアが開き酔ぱらって帰って来たヒカリが俺のベッドに入ってきたことさえ気付かずにいた。