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仲良く宿に戻り体を暖ためるような夕食を取りながら、ヒカリはスープの入ったスプーンを休めて不思議そうに俺に尋ねた。
「それにしても強くなったわよね。どうして急に強くなったのよ?」
「そうか、俺が強くなったのかな」
「じゃ、私が弱くなったって事なの?」
「それはないよ。実はこの3ヶ月間君が花嫁修業していたように俺も勇者修行をしていたんだよ」
「勇者修行・・、それって何なの?」
「簡単な話さ。昴さんにもっと強くなりたいと教えを請いたのさ」
「えっ、彼に教えを請いたの、ライバルの彼に?」
「昴さんがライバルだなんてとんでもない、俺とは天と地の差があるよ」
「でも武道大会では平ちゃんが彼に勝ったのよ」
「あの試合はまぐれだよ。それに半分は君のお蔭だしね」
「あら謙虚ね。これも彼の教えなのかな」
「彼は勇者の中の勇者さ。一緒に練習をしていて力の差がはっきり分ったんだよ。
それから何度も頼んでやっと練習方法を教えてもらったんだ。
それにどうしても魔導を使った練習はアラタとではできなかったからね。
それにしても、よくしてもらったよ。本当に助かった」
「へぇ、そうなんだ、よかったね。それが私に話したい事なの?」
「いや、それとは全然違う。この話はまた後でね」
以前から思っていたのだが、昔話の旧王国の王子様とバンパイアのお姫様との結婚は政略結婚だった。昔から高貴な家柄では政略結婚が行われていたのは周知の事実だ。そうであるならば王族のヒカリにも旧王国の王族の血が僅かでも入っている可能性は充分に有る。ならば彼女とでも真実の剣は発動する筈だ。それをずっと試してみたかった。
夕食を済ませ部屋に戻り俺が風呂から上がると、お願いした通りにヒカリがパジャマに着替えて待っていた。
「どうしてこっちの私なの。大人の方じゃ駄目なの?」
「ごめん、大人の方だとまだ少し恥ずかしいんだ。それに、お姫様が夜に男の部屋に2人じゃ拙いだろう」
「それもそうかもね。この姿なら見られても姫様とは分らないので安心ね」
「それじゃ、悪いけれど国王から頂いた指輪を俺に嵌めてくれないか、そして俺の膝の上に後ろ向きに座って、そして握り締めた俺の手を上から両手で包み込んでくれ」と頼むと
「これでいいの」と素直に従ってくれた。
「そうそう、じゃ電気を消すから、目を閉じてくれ。そして、これから俺の言う通りにしてくれ。何があっても絶対に口を開いちゃ駄目だぞ」
「分ったわ。これからはもう喋らないから」
「先ずは2人の楽しい思い出を考えてくれ。楽しい思い出、今のでも昔のでもいいから。楽しい事だけを考えてくれ。次に、こう息を吐いて、そしてこう吸って」と俺の指示に従い彼女の呼吸が俺の呼吸と同調しだした。
「最後だ、俺の鼓動が聞こえるか。俺の鼓動に君の鼓動合わせるんだ。ゆっくりでいいんだ。呼吸が同調すると自然と鼓動も同調するから。慌てない、慌てない」
俺の鼓動と呼吸が彼女のそれらと上手く同調すると、目の前が少し明るくなり何かが見え始めたので、彼女を更に確りと抱き寄せ精神を集中した。
すると、草原に2人の男女が横たわっていたが残念な事にかなり呆けていた。
ただ、心の中は暖かく感じられた。温かい風が吹き2人は楽しそうに笑っていたが、その会話の声はどうしても聞こえなかった。
その映像が数分は続いたのだろうか、彼女が我慢しきれず急にハックションとくしゃみをしたので、彼女の集中力が途切れてしまい、そして2人の鼓動と呼吸の同調が壊れて何も見えなくなった。