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家に帰り着くと「朝ごはんはちゃんと食べたの」とヒカリに訊くと
「勿論食べたわよ、それで午前中暇だったので、ちょっと散歩していたのよ。
でも、平助も大変ね、朝から運動好きのお友達がいて」とさっきの事はまったく自分とは関係ないと思っているが、俺は、彼女を抱きしめられたので、そんなことはどうでもよかった。
母には今日は午後からヒカリとプラネタリウムに行くからお昼は要らないと言っていたので
「お昼ごはんはどうする、どこかで食べますか」とヒカリに尋ねると
「まだ午後の投影開始には時間がありそうだし、私、朝ごはん遅かったからどこかでブラブラしてお腹を空かして食べますか、それより、平ちゃんは硬派なのに私とプラネタリウムに行って大丈夫?」と変なことを言ってくる。
「大丈夫って」何を心配しているのか全然分からなかったが、既にアラタが変な情報をSNSで流していたのには気付いていなかった。
2人でお昼をファーストフードで食べながら、彼女に参加賞のおもちゃの剣と盾について尋ねると、自分は勇者ではないので参加賞の剣や盾を手にしたことは無く、もちろん詳しいことは分らないとしながらも、おもちゃの剣と盾については簡単な事は教えてくれた。
・おもちゃなので人に向かって直接攻撃した場合は安全のために無力化すること
・アラタは大会参加が2回目なので初参加者より少し上の学童用のおもちゃが参加品として配られたこと
・聖剣は切るだけではなく、その属性と勇者の力量により特別な攻撃ができること
(例)火の属性のファイアーソードはファイアーボムなど
水の属性のハイドロソードはアクアビートなど
・盾も攻撃を防ぐだけではなく、その属性と勇者の力量により特別な攻撃ができること
「でも、ヒカリちゃんは詳しく知っているよな、どこで勉強したの」
「当然よ、お試しモンスターの説明会で習うのよ」と軽く答えたが、夜の練習といい剣や盾のことといい普通の人なら絶対におかしいと疑うはずだが、どっぷり彼女の虜となった俺には疑う余地すらなかった。
「それよりも、あの制服は南さんと同じだから平ちゃんの学園の生徒でしょう」と彼女は店内を少し気にしていた。
見回すと店内には夏休みの高校生で満員だった。もちろんうちの学園の生徒も多くいた。
ヒカリにはなぜかこちらをチラチラ見ている学園の女生徒の会話が聞こえていたらしいが、彼女との楽しい会話に夢中になっている俺には全然聞こえていなかったので、俺は彼女が何を気にしているのだろうかと女生徒の会話に耳を傾けた。
「平助先輩、俺は硬派だ。男女5歳にして席を同じくせずとか言っていたくせに、彼女とファーストフードのお店に来ているし。SNSでは抱き合っていたわよ」そんな声が、聞こえてきだすと彼女の顔が急に曇りだした。
「平助先輩、俺は女は嫌いだといって私の告白を振ったくせに、彼女と一緒に暮らしているって」
「これで、平助ファンクラブも解散だわ。新学期に女生徒の反乱が起きるわよ」
そんな声が、聞こえると今度はまるで彼女から貰ったストラップの鬼のような顔で
「あんた私に全然もてないって嘘を言ったわね、学校で相当もてるでしょう、何人の娘を泣かせてきたの。
でぇ、平助先輩、本当のことを言いなさいよ。彼女はいるの、好きな娘はいるの、早く言わんかい」その顔に半獣のときよりも恐怖を感じた俺は正直に、
「はい、彼女はいません。好きなのはヒカリちゃんだけです」と答えてしまった。
その言葉を聞くと急に顔が明るくなり、仏様のような優しい顔で彼女は
「プラネタリウムが楽しみだね」そう言って学園の女生徒の前を堂々と俺の手をグイグイ引いて科学館へと向かった。
プラネタリウムの投影開始時刻の30分前に科学館に着き、星に関する本や教材を2人手を繋いで見て回るとヒカリがおかしなことを言い始めた。
「この星って丸いのね、この世界の星はみんな丸いの?」と真剣な顔で話し出すと
「なに言っているの。当然星は丸いよ」
「へぇ、私の世界では星は平たいのよ、どの星も」と馬鹿なことを言うので
「ロケットってある? 宇宙から見ると地球は丸いけど」
「確かロケットはあるけど、宇宙に行くには魔導師が必要だわ、とくに能力の高い魔導師が必要ね」
「魔導師って、俺を異世界に召喚した奴らか」
「そうよ、私をこの世界に派遣したのも魔導師よ、そして聖剣を作ったのも魔導師なら政治や医学にも口を出すわ」
「魔導師って、凄いんだな。確かに異世界にも行ける力を持つ魔導師なら宇宙ぐらい行くことは簡単なのかも」と俺は納得した。
その後、投影開始時刻になったので2人仲良く最初の説明を聞き、星を見るために背もたれが倒れ天井を見上げて部屋が暗くなると、俺は朝の練習とアラタと戦いの疲れがどっと出てしまい、60分後の終了のブザーと彼女に1発頭を殴られて起こされるまでグーグーと寝ていて何も覚えておらず、その60分間彼女は周りからの視線を気にしながら恥かしげにプラネタリウムを1人で見ていたらしく、家への帰り道、彼女から一言もなく無視されたのは言うまでもない。