3-10-3
3-10―3
お昼前に南部の駅に到着し、そこから王族や貴族の避寒所となっている春の宮殿に向かった。この宮殿の一部は一般にも開放されていてそこは結婚式場になっており若者には人気のスポットだった。
宮殿に着くと予約をしていたのか既に衣装等の準備がしてあった。直ぐに着替えて記念写真を撮ると
「ほら、記念に婚姻届を出しましょうよ、名前を書くだけだから」
「記念に婚姻届って、どういう仕組みだよ」
「婚姻届を出すと、衣装を変えてもう1枚写真を撮ってくれるのよ。もう、ぐずぐずしていると平ちゃんの名前を書いて出してくるわよ」
「分ったよ、書きゃいいんだろう。でも王族会議の許可とか要らないのかよ」
「もちろん正式な結婚なら要るけど。ここはあくまでも記念だから。それに王族は籍がないから、婚姻届を出しても後々心配はいらないわよ」
どう考えても仕組みがよく分らなかったが、この旅行を楽しみにしていたヒカリがせっかく立ててくれた計画だったし、ここで躊躇していると叱られそうだったので自分の名前を書いて手渡すと
「書いてくれてありがとう、これで今から2人は一応夫婦よ。じゃ、写真を撮るからちゃんとキスしてね、ほらチュ、もひとつチュ」
「もう夫婦なの、それも一応ってどういう事なの?」
「そんな小さな事は気にしないの、もう夫婦なんだから」
「おいおい、本当かよ」
それから衣装を変えて何枚も写真を撮っていると、ヒカリはずっと今まで見た事がない笑顔だった。写真撮影が終了すると予約特典として写真付きの結婚証明書までくれた。
たぶん結婚証明書、衣装や写真撮影はセットで販売しているのだろう。彼女がこんなに喜んでくれるなら、それでよかったと婚姻届を出した事も気にもしなかった。それにしても人気があるのか次から次に若いカップルが並んでいた。これはアトラクションの一つかもしれないと思った。
また駅に戻ると特急電車で今度は海の方に向かった。一応婚姻届も出したので新婚旅行の始まりだった。
長い海岸線を電車は南にひたすら走ると少しずつ暖かくなっていった。
車窓からは小島が見えて、遊覧でもしているのか小船が沢山浮いていた。
「次の旅行はクルージングとかの船もいいわね」
「次って、また旅行するのかよ」
「当然するわよ。それに今度はどの可愛いドレスで写真を撮りましょうか」
「あの時間がかかる写真撮影がまたあるのかよ。それに衣装選びにも・・。旅行だけならいいけど」
「それは駄目よ。ドレスを着るのが目的だから」
「旅行が目的じゃないのかよ!」
今日は朝からバタバタしたのでホテルに着くのは夕方前になっていた。
受付で予約を確認するとちゃんと夫婦として予約が取ってあり、春の宮殿で貰った結婚証明書を出すと同じ料金でスィートルームに泊まれるようだった。
荷物を持ってスィートルームに入ると宮殿のヒカリの部屋より少し狭い部屋だったが、窓を開けると彼女の部屋とは違い一面オーシャンビューで海に沈む夕日が綺麗だった。
「あはーん、分ったぞ、結婚証明書が欲しかったのはこのためか」
「ピンポン、この部屋に1度は泊まりたかったけど、独身じゃ無理だったのよ。
それに平ちゃんと2人で来たかったし、嬉し過ぎて信じられないわ」
「はいはい、でも部屋に入る時にお姫様抱っこをしなくてよかったのか?」
「あっ、嬉し過ぎて忘れていたわ。もう一回入り直しましょう。早く入り口に戻って下さい。でも平ちゃん、そんな事よく知っているわね?」
「だって新婚旅行は2回目だからな」
「そんな冗談を言うと殺すわよ。でぇ、誰としたのよ」
「だから、君と2回目だよ」
「あらそうだったかしら。もうずいぶん前の事だから忘れたわ」
「おいおい、そんなものかよ。俺は良く覚えているぞ。確か・・」
「確か・・で止まったけど、その続きは?」
「確か髪が長くてほっそりとした女性だった。それにもう少し胸が大きかったな」
「それ私なの?」
「確か5年後の君だったけど、このままで本当にそうなるのかな」
「うっ、頑張って痩せますよ」