3-9-4
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準々決勝(第4回戦)の相手は、案の定アラタが強いぞと忠告してくれた準優勝校の先鋒が勝ち上っていた。体格的には俺より大きかったが動きが早かった。武道大会で戦う時とは全然違うテンポだった。
重い聖剣だと何度も振る事はできないので攻撃と攻撃の間に時間的余裕みたいなものがあったが、竹刀だと立て続けに攻撃されると面も重いし俺の息が少し先に上がってきたようで、俺が面を取りに行ったところで少し隙ができたのだろうか胴に1本取られてしまった。
そこから直ぐに1本取り返そうと焦ったのが拙かったのか、2本目で中央に対面し立ち会うと直ぐに籠手を取られ、あっさり2本取られて負けてしまった。
これで俺の試合は全て終わった。アラタと対戦するまでもなくベスト8止まりだった。少し悔しさもあったが、試合会場で他の選手がやっている試合を見ながら
「今の実力はこんなものだろうと、次の大会では決勝戦までは残るぞ」と決意し、控え室に戻るとアラタの試合を早く見ようとささっと着替えて他の部員がいる観覧席の方に移動した。
南の隣に座ると会場では試合が続いているのに学生服の俺を見て
「あら、もう着替えて試合は終わったの。それでどうだったの?」
「悔しいけど負けたよ、それで3戦勝ってベスト8止まりさ」
「そう負けちゃったの、でも3回勝ったんでしょう、それでベスト8は凄いの?」
「初出場ではそんなものだよ。次回頑張るよ」
「でも、4パートもあって次々に試合があるし、みんな同じ格好で顔は面で隠れているし、袴に名前が書いてあるけどよく見えなかったし・・」
結局、南は試合をしている俺の姿ははっきりとは分らなかったらしいが、他の部員から教えてもらった俺らしき人を応援したと言っていた。
パート毎の試合が全て終わったのか、会場のざわめきがなくなった。
「午前中の試合は終わりだな。じゃ、美味しいお弁当でも食いに行きますか」と南と一緒に控え室に戻りアラタを探すと、面を外して冷たい水を飲みながら休憩をしていた奴を見つけた。奴に試合の結果を尋ねると、当然の様に全ての試合で2本先取して準決勝に勝ち上がっていた。
「久しぶりの試合は気持ちがいいな。それで、お前はどうだった?」
「それを聞くのか、学生服に着替えた俺を見ると分るだろう。それより、ドアの外で南がお腹を空かして待っているぞ、早く飯にしようと」
「南さんが待っているなら、それでは急がないとな」と既に準備してあった豪華なお弁当を持って会場を出て、3人で涼しい場所を見つけて楓が来るのを待っていたが、直ぐに楓も加わりお昼にすることにした。
「平助は試合どうでした?」と楓が尋ねてきたので
「学生服に着替えた俺を見ると分るだろう」とまた同じように答えた。
「じゃ、1回戦、2回戦・・」と詳しく尋ねてきたので
「準々決勝で負けてベスト8だ」
「2ヶ月じゃ、そんなものだろ、剣道を甘く見るなよ。決勝にでも残られた真面目に練習してきた俺達はどうなるんだ」とアラタは言っていたが、
「確か、平助は10年って・・」と楓が言おうとしたので
「それは、ここでは言わないの」と目で合図した。
皆で美味しい弁当を食べながら、来週はどこに遊びに行こうかとガヤガヤ話をしていたが、剣道着の汗臭いのが駄目なのか南はアラタから少し距離を置いて俺の横に座っているのが奴には気になっていたので
「お前は汗止めスプレーをしていないな。女性は汗の臭いが嫌いなんだよ。特に胴衣は臭くて嫌なんだよ」とアラタに近づいて教えてやると
「よく洗っているけど駄目なのか? 汗止めスプレーなんて剣道にそんな物がいるのか、初めて知った。硬派のお前がよくそんな物を知っているな。お前は使っているのか?」
「勿論、今は使っているぞ」
「それも姫様の教えか?」と驚いていたが
「女性は汗臭い男性が特に嫌ですよ。今度私がいいのを探してあげます」と楓も同意していた。