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仕事から帰って来た母と3人で夕飯を食べながら、ヒカリが母に夏休みのレポートの提出が明日までだったこと、自分のスマホを見せて南から十字架のストラップを貰ったことや明日俺と2人で生まれて始めてプラネタリウムに行くことなどを話すと「さすが南ちゃんだわ。でもね、十字架は母さんもナシね。そうそう、ヒカリちゃん、夏のプラネタリウムはロマンティックでいいわよ、特に恋人どうにはね」と母も楽しそうに会話に参加したが
「恋人どうしには?」とヒカリが俺を見て不思議そうに呟いていたが、俺は惚けたふりをしていた。
その後も母の思い出話などで会話が弾み楽しく夕飯を済ませたが、俺が母の思い出話を聞くのは初めてだった。
楽しい夕飯の後、2人でまたジョギングして公園に行くと既に人影はなく
「昨夜と同じように平ちゃんは剣と盾が使えるように準備して下さい」と言うと、ヒカリは、辺りに誰もいないのを確認し昨夜と同じように何やら呪文を唱え始め、今夜も第二形態の大人の女性に変身し、俺も急いで聖剣と盾の名を呼ぶと大きくなり、実戦用の剣と盾になった。
軽く参加説明会で習った簡単な型から次々と復習し、昨夜のように俺に第一の型を構えさせて、彼女は横から棒で突いてくるが、昨夜と違い俺の体制が崩れない。これを第二の型、第三の型と次々に構えさせて、何度も横から棒で突いてくるが、それでも俺の体制が崩れないので彼女は不思議そうな顔をして
「どうしたのですか、凄いじゃないですか。いつの間に練習したんのすか」
少し偉そうに俺は朝に練習したことなどを話すと
「じゃ今度は、少し変化を加えて攻撃しますよ」と棒で素早く上下左右から攻撃すると、さすがに交わし切れずに体制を崩してしまった。
「でも、凄いですね、初心者ならここまででも2~3週間かかるんですよ」彼女はまるで経験豊富な軍事教官のように言ってきた。
さすがに15分も立て続けに練習したので、息が上がった俺を見て
「5分休憩しましょう」とベンチに座り、昨晩のように隣に座った大人のヒカリをまた目を皿のようにして見ていると
「嘘は良くありませんよね」と彼女は急に変なこと呟いた。
俺には、何のことを言っているかよく分からなかったが、まだ何か隠し事でもあるのかと思って
「まぁ、そうだろうね。嘘はよくない、どんな小さなことでも」
「じゃ、お風呂の後に部屋に来て下さい」と彼女は何か決心したみたいにベンチから立ち上がり
「じゃ、練習の続きをしましょう」と練習を再開したが、俺には嘘って何だろう、どんな隠し事だろとの疑問が頭を駆け巡り練習に集中することができなかった。
2人で家に帰り、それぞれ風呂に入って部屋に戻ったが、早く嘘の内容が知りたかった。というよりはヒカリとまた2人で楽しい話がずーっとしたかったので、お誘いのとおり彼女の部屋のドアを叩くと「どうぞ、入って下さい」と返事がした。
今日はちゃんと居るなとほっとしてドアを開けて部屋に入ると、彼女は何か検索でもしているのか机に座ってパソコンを見ていた。
「何しているの、また勉強?」
「違いますよ、写真を探していたんですよ」とパソコンに保存してある凄い量の写真から1枚を俺に見せてくれた。
それはどこか見覚えのある男性と彼女とのツーショット写真だった。
こいつは元彼か今彼かとの疑問が頭を駆け巡りだしたが、はっと気づいて
「こいつは宮本アラタだ」と叫んでしまった。
「この方、ご存知でしたか」と彼女は少し驚いた様子だった。
「あぁ、凄げぇ金持ちで、校内一の秀才で、校内一のスポーツマンで、校内一女生徒にもてるが、校内一男性に嫌われている嫌な奴だ」彼女との関係も知らずにズバリ答えてしまった。
「嫌な奴ですか、私もそう思います」とゲラゲラ笑っていたが、急に真剣な顔で
「昨日はこの人にも会っていたんですよ」と突然言い出した。
「昨日会っていた。お友達じゃなくてこいつと」
「いえいえ、友達に合った後にね。すません、嘘をついていて」
「嘘をついていたと言うからどんな嘘かと思っていたけど、大したことじゃない。そんなこと気にしなくてもいいよ」と言うと彼女はホッとしていた。
「でも、どうして君がアラタと会っていたの」と尋ねると彼女は奴との関係を詳しく教えてくれた。
・宮本アラタは去年勇者として異世界に召喚され、参加賞として俺と同じお子様勇者セットを貰い、付録のお試しモンスターとして彼女(その時は葵として)が派遣されたこと
・アラタは彼女が凄く気に入り何度も金に物を言わせて契約を再三延長したこと
・今年もお相手を何度も申し込まれたが彼女が嫌で嫌で再三断ったこと
・たまたま平助と2人でいるところを見られてこっちの世界にいると知ってからストーカーのようにメールがしつこいので止めて下さいと言おうと昨日会ったこと
等々を話した。
「くそぅ、宮本アラタめ、あれだけ女生徒にもてるくせに、よりによって俺の幸せを壊しにきやがって許さん」と思わず口に出てしまったので、彼女は少し笑って
「平ちゃんは、学校ではもてないんですか」と少し否なことを訊いてきた。
「俺なんか頭良くないし、スポーツも出来ないし、全然、全然、女生徒には見向きもされないよ」と答えると
「へぇ、本当かな、私はもてると思うんですがねぇ」と疑いの目で俺を見ると、今度は真剣な顔をして
「でも、平ちゃん、絶対アラタさんに手を出したら駄目ですよ。彼は凄腕の勇者で今年も大物を倒してポイントをかなりゲットしたみたいですよ、平ちゃんがケガでもしたら大変」と彼女が忠告したが、俺の頭が怒りで一杯だったのでその忠告は耳には入っていなかった。
「それでは、気分治しに私の撮った写真でも見ますか」
ヒカリが俺の隣に座り、彼女がパソコンに保管してある異世界の自然や町並みなどの数々の写真を見せてくれた。
「えぇ、異世界にはこんな場所もあるのか」
「もっと凄い所もいっぱいありますよ」
「でも、俺の異世界は僅か1週間で宿のある街しか、こんな場所は行っていないよ」
「じゃ次回、平ちゃんが異世界に召喚された時は2人で観に行きましょうね。きっとですよ、じゃ約束」
「もちろんだとも、2人で。そして、次にヒカリちゃんがこちらの世界に来た時は観光地を俺が案内するよ、絶対に」と彼女と約束し、俺は夜も深まったので自分の部屋に戻った。