3-7-2
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歩いて俺はアラタの家に着くとかなり疲れていた。それから、きっちりと首から左手を吊り下げて大ケガを負った様に装い、暗い顔をして剣道場へ入っていった。
思ったとおりアタラと楓が練習前の準備体操を始めていた。
「おはよう、どうにか帰って来たよ」と俺が弱々しく寂しげに2人に声をかけるとアラタが気付き振り向くと、俺の包帯を見て心配そうな顔をした。
「どうしたそのケガは、そうか、やはり無理だったか。
そうなに気を落とすな、仕方ないさ、相手が相手だからな。
俺もあっさりと負けたんだから。お前が敵う相手ではない」と試合の勝敗を確かめずに、俺を慰めだした。
「そうですよ、平助はずっと頑張ってましたよ、また来年がありますよ」と横にいた楓も頷きながら同じように俺を慰めた。
「あぁ、どうにか必死で戦ったので秒殺は免れたよ。でも、やっぱり強かったな。さすがに優勝者だ。そうだな来年頑張るよ」と明るく振舞い、そろそろかなと
「そうだ、早く試合が終わったので時間が余ってな、記念に2人にお土産を買ってきたんだ。大した物じゃないけど受け取ってくれないか」とカバンに隠してあった準優勝のトロフィーを見えないように出してアラタに手渡すと
「そうか、1回戦で負けると時間が余るな。ゆっくりと街でも見物したか。
これがお土産か。でも、何処かで見た覚えがあるぞ」と、よくそれを見ると
「何だこれは、準優勝って、それにお前の名前が刻んであるぞ」と、そんな事は信じられないと言わんばかりの顔で驚くと、楓もそのトロフィーを見るなり
「嘘でしょう平助、準優勝って、凄いわ」と俺に抱き付いてきた。
「勝ったんだよ。勝ったんだよ。どうにかあいつに勝ったんだよ。
それで、どうにか準優勝までできたんだよ。
これもみんな2人のお陰さ、本当にありがとう」とお礼を言うと
「それは、本当か、嘘じゃないんだな、勝ったのか、本当にお前が勝ったんだな」と今度はアラタが俺に抱き付いてきた。
こんな事は初めてだったので俺も嬉しさの余り少し泣けてきたが
「相手がケガでもしていたか、それとも、もしかして下剤でも飲ましたのか」とアラタが誰と同じような冗談を言うので
「おいおい、バカな事は言うなよ。もしかして、神様が俺を勝たせてくれたのかもしれないな」と笑って見せたが、後で詳しく俺が勝てた本当の話をした時は2人して更に驚いていた。
「じゃ、本当のお土産を渡さないとな」と2人にちゃんと買ってきたお土産を渡し、更にアラタには前に借りていた3万ポイントをちゃんと返した上に南の水着写真は利息代わりにあげてしまい、楓には友達からのビデオメッセージを見せると喜んでいた。
「すまないが、この左腕は大したケガじゃないが、まだ痛むので今日の練習は休ませてくれないか」と頼むと
「勿論だ、ゆっくり休め。それで南さんにはこの事を伝えたか」とアラタが言うと
「ついでに南さんも騙してみたら、彼女は私達以上に驚くわよ」と楓が勧めるので
「そうだな、きっと南も驚くぞ」と南も朝ごはんをそろそろ食べ終えた頃だろうと会いに行った。