3-7-1
3-7-1 9月26日日曜日
「平ちゃん、起きて下さい。朝ですよ、起きて下さい」とヒカリの声が耳元から聞こえてくる。
まだ異世界のホテルかな、あいつは今日は仕事じゃないのかなと右手を伸ばしても目覚まし時計に手は当たったが彼女はいなかった。
目を開けるといつもと同じ天井が見え、そこは自分の部屋だった。
「無事に戻ってきたみたいだ。おっ、肌寒いな。そっかそろそろ秋だな。
また、今日から声だけか、少し寂びいいよな、でも、きっと直ぐに会える。
それまでの辛抱だ」と自分に言い聞かせた。
部屋を見回すと枕元にはいつも使っている赤いカバンとお土産があった。
「やった、上手く送喚されているようだ。では、こっちの方は」と包帯がまだ巻いてある左手を動かし、掌を握ったり開いたりしてみると、まだ少し痛みがあった。
しかし、昨日ほどの痛みは感じられないので
「よかった、少し痛いが無事に動くし力も思うように入るぞ。これなら都大会には出られそうだ」とホッと胸を撫で下ろした。
「さて、心配事は無くなったし朝ごはんでも食べますか」とベッドか起きて、どうにか片手で着替えを済ませて1階に下りると台所で母がご飯の準備をしていた。
「おはよう平助、でもまだ6時よ、今日はやけに早いので。
あら、その左腕どうかしたの、包帯なんかして、練習でケガでもしたの」と心配に俺の左腕を見るので、俺は、大した事ではないと軽く動かしてみせて
「あぁこれね、昨日部屋を掃除していたら、慌てていたのかな、タンスの角に打ってしまったよ。それで自分で湿布をして巻いたのさ、大したケガじゃないよ。打撲だよ」と嘘を言うと
「バカね、何をしていたのよ。それに今日は日曜日でしょ。こんなに早く起きて、学校はお休みよ、それとも朝の練習にでも行くの」と驚いていた。
「そうだった。今日はまだ26日の日曜日なんだ。その日に戻るんだったな」と召喚された日に戻る事を思い出すと、ムクムクと悪い感情が湧き上がった。
「日曜日の朝に戻るなら、当然アラタ達は俺の準優勝を知らない筈だ。
教えてやるときっと驚くだろうな。でも、素直に教えてやってもいいが、少し悪戯でもした方が面白いかな、そうしよう」と考えてしまった。
朝ごはんをどんな悪戯をしようかとワクワクしながら大急ぎで食べると
「あら、今朝はお腹が空いていたのね。昨晩の掃除は体力がいったのかしら」と母が漏らしていたが、俺はそんな事は耳にも入らず
「たぶん今日も2人は朝の練習をしているだろうから直ぐでも剣道場へ行きたいが、右手だけの自転車は危ない。もしもの事があると大会に出られなくなる。
それは拙いな。仕方ないな歩いて行くか。
待てよ、その方が逆に疲れた感じが出て騙し易そうだ、ウフフ」と2人を上手く騙す事しか考えていなかった。