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時間をつぶして部屋に戻るとドアの前に見覚えのある男が立っていた。そう、以前戦ったじいさんの護衛だ。俺に気が付くと「おめでとう、今日の試合は凄かった。閣下は部屋でお待ちだ」と握手をきた。前回とはえらい違いで友好的だったので驚いたが、俺の部屋に入るとじいさんが椅子に座って待っていた。
「お帰りが遅いので、心配していましたよ。準優勝賞とは御見それしました」と笑顔だった。こちらも予想以上に友好的だった。
「やっぱり、来ましたか。もうそろそろ来るんじゃないかと。そうそう、じいさんにお礼を言わないと、じいさんの推薦状と余計な手助けで大会に出場できました。それで、今日は何の用ですか」と皮肉を言うと
「やっぱり、ご存知でしたか。どうしても貴方様を大会に出場させたくてね。
それで、今晩は貴方様にお願いがあって参りました。どうか今からバンパイア国に来てくれませんか。貴方様を是非に姫の婿にと考えて下ります」と話し出したので俺は驚いた。
「これはまた急に、前回は俺の恋路を邪魔しに来たのに今度はいきなり婿になって欲しいとは。それは、俺が貴方達の目的に反して勝ったからですか、それとも期待していた人が俺に負けて優勝できなかったからですか」と尋ねたが、俺は対戦相手がヒカリの声に気を取られすぎた理由をあれからずっと考えていたが、こうも早く答えが出るとは思わなかった。
「そこまで気付かれていましたか。確かにあの者が5連覇すれば、姫の婿にと考えていました。そしてそのように話を進めていましたが、まさか貴方様に1回戦で負けるとは思ってもみませんでした」
やっぱりそうだったのか、もし秒殺で負けて全国に恥をさらした俺と武道大会で5連覇して殿堂入りした勇者なら、姫に相応しいのは・・。彼女以外には誰も反対する者はいない訳か。
「それで急に俺に国に来てくれとは、王様の容態でも」
「そこまでご存知でしたか、その通りです。残念ながら容態が芳しくありませんので、早く姫とご婚礼を」と命ぜられました。
「今度は直ぐに結婚しろと言うんですか、都合のいい話ですね。でもそれは無理ですよ。だって俺まだ彼女にプロポーズもしていなし、まだ17歳で結婚はできないし」
「そんな事ですか、そんな事ならこちらでどうにでもなりますから、是非に」
「そこが駄目なんですよ、結婚って貴方達の都合でするものじゃないんですよ、だから、彼女はそんな事が嫌で国を出たんだと思いますよ。じいさんの後ろにいるどこかのお偉い王族さんとも話してみて下さい。俺は無理だって」と全てを知っているかのように振舞うと
「たぶんそうお答えになるだろうとは思っていました。残念ながら、それでは、またの機会にでも」と老人は今日はあっさりと仕方なく部屋から出て行ったが、またの機会とは・・直ぐにもまた会うつもりなのだろうか。
これでこっちの世界でのすべき事は全て終わったと、風呂に入って疲れを取り
「今日はぐっすり眠れそうだ」と枕元にぎゅうぎゅう詰めのカバンとお土産を一つにまとめて置いてベッドに入ると
「やっぱり勇者の暴漢事件はあのじいさんの仕業だったのか。俺を大会に出して1回戦で無様な負けをヒカリに見せて、俺を諦めさせようとした。そして相手には姫との結婚の確約でもしたのかな。これも政略っていうやつか。可哀想に、その結婚相手の姫が他の男を応援していたのか・・。待てよ、じゃ、公園で俺を襲ったのは誰だろう。じいさんの他に犯人がいるとしたら、そいつらは何が目的だろうか」と珍しく難しい事を考えていると自然と眠りに着いてしまった。
深夜零時を回った頃だろうか、部屋のドアがガチャガチャと音がしたので目がぼーっと覚めると、ドアがすーっと開いて、誰かが俺の寝ているベッドに入って来たかと思うと、俺に抱き付いて「今日は疲れたぁ」と若い女性の疲れた声がして俺にギュッと抱きつくと眠り始めた。
手の感触で直ぐにヒカリだと分ったので「お疲れ様」と言うと「起してごめん」と謝ってきたが、俺は「今日じいさんが来て、早く結婚しろとさ」と教えると「そうね」と力ない呟きだったので「今日はかなり疲れているな。今は何を言っても無理だな」と右手で抱きしめるとその後は無言のまま、俺がさようならを言う事もなく送喚されるまでの間そのままでいた。
俺が送喚された後に彼女は1人で自分の部屋に帰ったのだろうか。それともそのままホテルに泊まったのだろうか。俺はその答えを知らないまま、また元の世界へと戻されてしまった。
第3章6部までお読み頂きまして、ありがとうございました。
次話から7部をお送りします。この後8及び9部に続き第4章「バンパイア国編」を予定しております。
どうぞよろしくお願いします。