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奥手な勇者の恋の相手はモンスター  作者: ゴーヤウリウリ
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1-3-1

1-3-1 8月3日火曜日

 ピポピポピー、けたたましく朝6時に目覚ましが鳴り、いつものように目が覚めるといつもと同じ2階の自分の部屋、同じシングルベッドの上、同じパジャマだった。

 今日も馬鹿な俺はヒカリの添寝をなぜか期待していたが、手を伸ばしてみてもやわらかい感触はなく、もちろん俺の横には誰もいない、いつもと同じ俺一人だった。いや、むしろこれが普通なのだ。


「起きたの、早く朝ごはんを食べなさい」いつものように母の声がしたが、

「今日は、ヒカリちゃんを起こしてね」ここは違っていた。

 隣のドアをノックしても返事がないので「ヒカリちゃん、朝だよ」とゆっくりドアを開けると完全に熟睡している。

 朝は駄目だとは彼女から聞いていたが、この寝坊助ではこちらの世界では暮らしてはいけないなと毎日早起きが自慢な俺としては少し優越感が湧いたが、もし結婚でもしたら朝から俺が食事の用意をしなくてはいけないのかとゾッとしたが、それでも彼女との新婚生活ならそれはそれでいいのかもと思わずニヤついてしまった。


「母さん、ヒカリちゃんから昨日聞いたんだけど朝は駄目みたいだよ」と1階に下りて母に話すと

「仕方ないわね、この頃の若い娘は低血圧とかで朝は起きないとは聞いていたけどここまで酷いとはね。隣の南ちゃんとは雲泥の差ね」と呆れていた。

 そして、母と2人でいつものように会話もそれほど無く朝ごはんを食べて母は仕事に出て行った。

 俺も図書館が開くにはまだ時間があるので、それまで昨夜の練習の復習やネットで調べた別の練習でもしようかとタオルを首に巻いて公園までジョギングで出かけた。 


 図書館にはめったに行かないので朝10時に開くとはちっとも知らず、早朝から何時間練習したのだろうか、剣の代わりに握っていたバットには豆が潰れたので薄く血がついていた。「少しやりすぎたか」とやっと開いた図書館の洗面所で手を洗いながら鏡で顔を見ると首筋の辺りが赤くなっている。

「公園で虫に刺された跡がまだ治っていないな」と、きれいに洗った手をタオルでぐるぐる巻きにしたが、潰れた豆がズキズキしていたので首の痒さは気にもならなかった。


 エントランスに出ると朝の勉強会が終わってやっと南がやって来た。

「おはよう、なにその手、バットの振りすぎ」

「いや、大したことじゃないよ、それで話とは」

「ここじゃマズイから、中に入ってから」と南と2人で図書館の書籍が並ぶ部屋へと進んだが、彼女は図書館にはよく来るのだろう何の迷いもなくお目当ての本棚へと歩いたので俺はその後を付いて行った。

 

 南は目の前の棚から西洋モンスター全集なる厚手の本を取り出してきてバンバイアの項目を開き俺に見せた。

「これだと思うけど、どう?」

俺は、そこには見覚えのある半獣の挿絵があり、南の指差した挿絵が的を得ていたので一瞬ドッキとしたが、わざと呆れた感じで訊き返した。

「どうって、なに?」

「なにって、ヒカリさんよ」

「南、おまえ頭でも打ったか、それとも勉強のし過ぎか」

南の口調が強くなったが、俺は笑いながらごまかそうとした。

「ごまかしても駄目、私には分かるのよ、彼女とはいつどこで知り合ったの」

「いつどこで知り合ったって、従妹だぞ、血が繋がっているの、17年前からの親戚です」と強く否定したが南はそれに納得せずに

「じゃ、質問するけどいい」

「質問、何の、まぁいいけど」

「彼女の好きなものは?」

「確か、朝寝坊とレバーかな」

「嫌いなものは?」

「そうだな、ニンニクと日差しかな」

「ほら、やっぱり」と南はなぜか納得したが、

「やっぱりって、南、お前はどうだい、ニンニクは好きか?」

「臭いので嫌い」

「ほら、若い娘はニンニクは臭いので嫌いなの。テレビや映画の見すぎじゃないの。じゃ日差しは?」

「日焼けは後が残るし、シミやソバカスの原因になるので嫌い」

「ほーらね、若い娘はみんな日差しが嫌いなのよ、だからUVケアーしているでしょ。南も毎日しているだろう」

「まぁ、しているけど、夏は特に」

短気な性格の南が質問攻めで畳み掛けて来たので、俺は即答で上手く交わし続け丸め込んだつもりだったが、


「じゃ、鏡には映る?」

「鏡、何それ、確かめたことはないけど、写真ならほら」とスマホに写った母、ヒカリと俺の3人での楽しく過ごしている夕飯の画像を見せると

「あらホント、ちゃんと写っているはね。楽しそうね、他にはないの、ちょっとスマホ貸して」と無理やり俺からスマホを取り上げて次々と画像を見始めると

「これ何、ヒカリさんの写真ばっかりね。でぇ、この彼女の寝顔のどアップの写真。あんたいつ、どこで取ったのよ、もしかして彼女の部屋でも侵入したの」とこっそり撮った昨日の朝のベストショットを俺に向けると

「俺はストーカーか、偶然だ、早く返せ」このままではマズイと早く返せと即したが、南は次々とクリックし

「なに、この下着姿の寝顔の写真。あんた盗撮でもしているの、この変態」

しまった、下着姿の寝顔の写真までバレタ、ついに俺のお宝が見つかってしまった。今思えばロックしておくべきだったと悔しかったが、

「バカ言え、たまたまだよ」と軽くその場を濁そうとしたが、

「たまたま、そんなことある訳ないじゃない。これは絶対に犯罪だから削除としないと」と言って、俺の許しも得ずに南はスマホのキーをピープーピーと3プシュして、いとも簡単に俺のお宝を削除した。

 なんて日だ、最悪だ。この世界で金貨10枚の悪魔を見つけた気分だったが、話がそっちの方にずれたのでどうにかバンパイアの件はうやむやになったが、図書館の閲覧者から2人の会話の声が大きくて迷惑だったのか「いいかげんに静にして下さい」の視線を受け、ばつが悪くなり図書館をそそくさ出て行った。


 南と2人で家に帰る途中、商店街のファストフード店の前を通りかかると

「ここでアイス買ったのね」と南が店のドアのガラスを覗き込むとヒカリがいたらしく

「あれ、ヒカリさんじゃない」

「ヒカリちゃんは、朝が駄目で、朝ごはんを食べていなかったので店に来ているのだろう」と俺は彼女が店にいること自体は気にもしなかったが、

「あれ、誰かと一緒ね」と聞くと凄く気になりだした。

 自分のことは棚に上げて、朝早くから誰と一緒にいるのだろうかとイライラし、道路に面した窓から覗き見ることやこのまま南と二人で店に入ることはできないかなと考えたが、逆に怪しまれて嫌われたら大変だし、後で確かめれば済むことだとその場は諦めて家へと向かった。


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