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「それが不思議でさぁ、聖剣に刻んであった呪文が読めたんだよ。それで呪文を心に念じたのさ。そうしたら魔導が上手く使えて・・だから、勝てたのは本当に奇跡だって」と笑うと
「えっ、それってどうして急に読めたのかしら。不思議ね・・。もしかしたら、勇者としてこちらの世界に来て何かが覚醒したのかしら、なんでだろうね」
「確かに君の言う通りかもしれない。この世界に来て俺の勇者としての何かが目覚めたのかな。でも、直ぐにまた読めなくなって準決勝戦は苦労して、こうなった訳さ」と笑って左腕を示すと
「えぇ、直ぐに読めなくなったの。勿体無かったね。もしずっと読めていたら優勝していたかも。残念な話しよね」と笑っていた。
俺は彼女の明るい顔を見ながら、本当はヒカリがくれた薬で数百年前の記憶が蘇って呪文が読めた事をも話したかったが、俺とヒカリがずっと上手くいっている事は今の彼女にはどうしても知られたくなかった。
「ほら着いた本屋さん。南さんのお土産と、それに平助にぜひ読んでもらいたい本があるのよ」と彼女は俺の右手を引っ張ってさっさっと店に入ると、何故か子供用の童話や昔話の並ぶ棚へ俺を連れて行き1冊の本を手に取り俺に渡すと
「以前、パンパイアのお姫様が出てくる昔話を私にしたよね。それで私もあれから気になって調べたら、見つけたのよ。それがこの本なの。ほら読んでみて」と俺にせがんだ。
直ぐに俺は読み始めると、確かにその本のお話は王様が王子様に真実の剣をパンパイアのお姫様と結婚する際に譲る話だったが、それは長い物語の後半のお話で、前半は王子様と別のお姫様との悲恋の話だった。
「そっか、あの話は後半の話か。何だこの王子様は二股じゃないのか、最低な奴だな」と俺が少し怒ると
「ちゃんと読んでね。では何故王子様はその小さい頃から大好きなお姫様と別れてパンパイアのお姫様と結ばれたの」と訊いてきたので
「それは、バンパイア国との戦争を避けるために仕方なく。言わば政略結婚だな」と答えると
「はい、正解です。お姫様は大好きな王子様と結ばれたかったでしょうね。可哀想なお姫様」と少し涙ぐむので、彼女はえらく感傷的だなと思った。
「どうして君がそこまで言うんだよ。そんなに悲しい話なのかな。政略結婚なんて戦国時代にはよくある話じゃないか」と訊いてみたが、彼女が黙っていたので、俺は少し考えてみた。
その昔話によると元々は真実の剣は王様しか使えなかったとか、俺は元々は勇者だから聖剣は使えるとしても、それがどうして彼女にも使えるのだろうか、そういえばヒカリが佐倉家は旧国王の直系って言っていたな・・と
「まさか君は本当ならお姫様なの、そんな筈はないよな。だってお父さんは会社員だったし」と信じられず尋ねると
「半分正解かな。確かに父は王族だったけど、私は生まれた時から普通の人よ。でも、たぶんこの昔話のお姫様は私の先祖かもしれないのよ。だから・・」
「でも、佐倉家の娘さんは亡くなったって聞かされたけど、それも君とは別の名前だったし」と俺が不思議そうにしていると
「平助、意外と知っているわね、どうしてそんな事を知っているのか私に教えなさいよ」と詰問してきたが、これはヒカリから聞いた話なので絶対彼女には話せないと思って
「いや、噂で噂で聞いただけさ」と、ごまかしたが、
「今はまだ詳しい事は、貴方にも言えないの、ごめんなさい」と困った顔で謝ってきたので
「俺は、サクラが元気ならそれでいいんだ」と、それ以上は訊かない事にした。
「じゃ、この本を買って下さい。帰ったら南さんにちゃんと説明して下さいね」と彼女が南へのお土産をあっさりと決めてくれたので、俺が探す暇が省けてしまった。