3-5-8
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俺は、まだ左手に力が入らずトンファーを上手く操ることができないと判断してので、
ホルダーに入れたままで、両手で聖剣を構えた。
「とにかく時間を稼ごう。今の俺には体力の回復しかない」と少しでも時間を稼ごうと相手から距離を置くために会場の隅に逃げた。会場からは俺への声援がまた盛大なブーイングに変わると、審判から指導を貰いまた減点されたが、そんな事は気にせずに呼吸を整えて中央に戻った。
相手は前の試合が早く決着が付いたのか力を持て余して聖剣をブンブン振り下ろしてくるが、アラタの振りよりは遅く感じられたので体を横や後ろに動かすだけで上手く交わす事ができた。しかし、この攻撃が嫌と言うぐらいに続いたので俺は前の試合で疲れていたのか足が上手く動かなくなってきていたので、装備品の上からだが何本かは交わしきれずに決められて、ダメージを受けていた。
それに、俺の右手一本での聖剣の攻撃は簡単に相手の盾で防御されて全然効果が無い。それどころか、接近戦になると相手は体格差を利用して俺に盾ごとぶち当るので俺は床に倒れてしまった。
この攻撃は俺からの戦意を喪失させるので厄介だ。そして、相手は聖剣の攻撃は避けられてしまうと思ったのか、俺が直ぐに起き上がっても相手は更に調子が上げてぶち当ってくる。まるでラクビーのタックルだ。俺は何度となく床に倒れ、そして起き上がった。体力は消耗していったが、ただ、聖剣の攻撃が少ないので左腕は確実に回復しているみたいだ。
俺は魔導がまだ使えるか試しに聖剣に念じて振ってもやはり疾風は起こらず、観客から見ると距離がある相手に空振りしているようで格好も悪く、会場から「あいつは何をしているんだ」「空気を切ってバカか」と失笑が出る始末だった。
残り時間5分のブザーが鳴ると、相手はここで決めてやろうと総攻撃を仕掛けてきた「ファイーヤーボーム」と叫ぶと聖剣の先から火の玉が出て、それを俺に次から次へと投げつけ出したが、俺の聖剣は水の属性なので火の属性の聖剣の攻撃には強く、その火の玉を全て叩き落すと、相手も魔導の大技を使い過ぎたのか力が衰えだし少し動きが遅くなってきた。
試合開始から時間が経ったので俺の左手に少し力が入るようになり、腕が上がるようになって来た。
「一か八か、試してみますか」と相手が聖剣を頭から振り下ろすと、俺は左手のトンファーでそれを受けて少し痛そうな顔をして、直ぐに右手の聖剣で相手の左肩の方から振り下ろすと、相手は盾でそれを防いだ。
また、相手が聖剣を頭から振り下ろすと、さっきと同じ様に左手のトンファーで受けると、今度は「痛い」と声を上げ酷く痛そうな顔をして、右手の聖剣で相手の左肩の方から攻撃すると、相手はまた盾でそれを防いだ。
すると相手は自分の攻撃が効いていると思い、今度は全力で聖剣を頭から振り下ろすと、その振りを左手のトンファーで受けると、さっきと同じ様に「あぁ、痛い」と大声を上げ酷く痛そうな顔をして、右手の聖剣で相手の左肩の方から攻撃しようと見せかけて左脇腹からすると、相手は反射的に左手に持つ盾を上げたのを下げてそれを交わそうとしたので少し体制が崩れた。「待っていました。右脇腹が空いています」と直ぐに俺の左のトンファーを半回転させて鋭く突いて攻撃すると、咄嗟には右手の聖剣では交わせずに右脇腹に入った。相手は装備品で防御しているとはいえ、魔導師の作ったトンファーの威力は凄く床に膝を着くと、運よく俺の目の前に攻撃に適した高さに頭が来たので、続けてトンファーと聖剣で頭を俺の全力でこれでもかとめった打ちすると、相手は脳震盪でも起したのか反応がなくなったので、審判が止めに入って手を大きく振った。
「また勝ったんだ」と信じられなかったが、審判から俺の勝ちがコールされるとやっと無事に終わったとしか思わなかった。喜びの感情は余りなかった。何故ならもう左腕は紫色に腫れ上がっているだろうし、左腕を動かそうとしても痛いばかりだ。骨に異常がなければよいのだがと剣道の都大会を考えると残念ながらこれで終わりだと思った。
今度も予想を覆す結果だったので観客がワイワイと騒ぎ出したが、俺は中央で一礼をすると静に彼に近づき善戦を称え合って今度は1人で歩いて控え室に戻った。