3-5-6
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相手は俺の魔導が尽きたと分かると、ここぞとばかりに「おーっ」と渾身の力を込めて襲いかかってきた。
俺は両手で持った聖剣で相手の渾身の一振りを受け止めたと思っていたが「カキーン」と音がすると俺の聖剣が手を離れて飛んで行ってしまって床に転がっていた。
「しまった。左手は剣に添えていただけなので、右手1本だけで受け止めるのは無理だったか、もはやこれまで、棄権か・・」と思う暇も無く、相手の次の一振りが俺を襲ってきた。
その時、会場東の相手方応援席から喚声に紛れて「あぶない、へいすけぇー」とヒカリの大きな声が聞こえたと思うと相手が事もあろうに会場をチラッと見て彼女を探したのか、そして聖剣の振りが少し鈍ったようにも感じた。
「まさか相手の気が散ったのか、それともが躊躇したのか、でも、もう無理だ、防ぎきれない」と痛めた左手でトンファーを出そうとしたが反応が遅すぎて防ぐことができなかった。
「もう終わりだ」と思って一瞬目を閉じてしまったが、喚声が湧いていた。そして、俺はまだ会場に立っていた。相手の聖剣は床から出てきた氷の壁が遮っていた。
「また、聖剣が俺を守ってくれた」と俺は咄嗟にトンファーを半回転させて渾身の力を込めて相手の右横腹に深く叩き込んだ。
相手は装備品で防御しているとはいえ、魔導師の作ったトンファーの威力は凄く、その装備品は2つに割れて、トンファーは腹にめり込んでいた。相手は床に膝を着くと、直ぐに立ち上がろうとしたが無理だった。片膝をついたままの彼に審判が近づき戦闘不能と大きく手を振った。
「終わった。俺が勝ったんだ」と信じられなかったが、審判から俺の勝ちがコールされると俺は床にそのまま大の字に倒れてしまった。天井を見上げてたぶんサポーターの下の左腕は紫色に腫れ上がっているのだろう、腕を動かそうとしても痛いばかりだ。良くこれでできたものだと思った。
予想を覆す結果だったので観客がワイワイと騒ぎ出したが、それは俺の勝利に驚いたのか、自分が賭けていた相手が負けてしまったせいなのか、俺にはどうでもよかった。
俺は関係者に肩を借りて立ち上げてもらい、どうにか立ち上がり1人で歩けると中央で静に一礼をすると対戦相手に近づき善戦を称え合い、そのまま関係者に肩を借りて控え室に戻った。
控え室で倒れるように横になった。息が上がっていたと言うよりは息をしていなかった。自ら外す力が出なかったので担当のレイさんがサポータを外して観てくれた様だったが「わっ、酷い。直ぐに冷やさないと」と彼女の声を聞いただけで、俺はずっと目を閉じていた。もう目を開けて見る力が残っていなかった。直ぐに氷水で左腕と頭を冷やしてもらうっていると疲れと試合が無事に終わった安堵感かそれとも試合前に飲んだ錠剤のせいだろうか直ぐに意識が遠のき、俺は何も言わずにそのまま眠り込んでしまったようだ。
不思議と痛みは感じられなかった。何かいい夢でも見ているのか、激しい戦いの後だと言うのに安らぎを感じていた。誰かが俺の顔を優しく撫でている感じがし、良い香りがするので目を開けると女子高生姿のヒカリの顔が目の前にあった。俺は彼女の膝枕でずっと寝ていたようだ。
「気が付いた、平ちゃん。良かった無事で」と心配そうな顔で俺を覗き込んでいたので
「君は誰? ここは何処」と言うと、それを信じたのか
「嘘、嘘でしょ平ちゃん、記憶がなくなちゃったぁ」と泣き出したので
「ごめん、ごめん。冗談、冗談だよ」と謝ると
「よくこんな時に冗談が言えるわね。まぁ、冗談が出るんだから心配は要らないか」と俺の頭を叩いた。
「でも、どうして君がここにいるんだ。相手の応援はいいのか」と尋ねると
「さて、どうしてでしょう」とニヤリと笑っていた。