この世界についての手短な解説‐2
男性にのみ特異的に感染する伝染病――「メイルウイルス」の残した爪痕は、各国の社会システムそのものを大きく変えるに至った。
その対策として日本で成立した「男女比維持法」の関連法案の中には、教育基本法の改正も含まれていた。
その主な変更点は2つ。ひとつは先に述べた「高校の『出会いの場』化」であり、もうひとつが「高校入学以前の男女教育の分化」である。
どういうことかというと、幼児教育、また義務教育の期間中、男女は別々の学校に通う。つまり、幼稚園も保育園も小学校も男女で通う学校が分かれているのだ。
これは、
・以前までのように近い学校に男女ともに通うことにすると、男子が圧倒的少数のために疎外感を感じてしまう。
・娘を持つ親が男子に接近するように言い、健全で自立的な成長と成婚を阻害する。
・男子には家政、すなわち家庭科――料理・洗濯・その他の家事などの授業の割合を多くする必要があり、別々の学校に通わせた方が都合がいい。
等々の目的で当初制定された。そのため多くの女子にとっては、高校入学まで同年代の男子と接することは全くない。
しかしこの教育基本法の改正において最も大きな変化を男子たちに生んだのは、「男子校、特に男子中学校では『婚活準備特別授業』を男子とその親に行う」という、一見なんでもないもののように見える一文だった。
この特別授、通称「婚特」において何が行われているのかを女子とその母親は全く知らない――息子を持つ母親から情報を得ない限りは。そしてこれが夕陽の身に降りかかる災難の最大の原因だったのだ。