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黒点の上に立つ  作者: ああああ
日暮夕陽
6/18

日暮夕陽-1

かなり書き散らしているので、あとあと手を加えます。

その日の昼休みも、ぼくは男子クラスの隅の机で独りで弁当を食べていた。


男子は1つの学校に10人前後と決まっている。全員が同じ学年になるよう調整されて割り振られるから自然とクラスも1つになる。使う教室は1クラス40人の女子と同じものなので、黒板に近い前側に10個の机と椅子が並ぶ一方で、後ろは何もないがらんとした空間と占めている。


新学年になり、いつも通りに9人の知らない男子たちがうちの学校に転校してきた。1学期間だけの付き合いとは言ってもやはり友達は作っておきたいらしく、入学から1週間も経っていないのにもうすっかり打ち解けているように見える。既にリーダー役やいじられ役という役割の割り振りまで済んでいるようだ。もちろんぼくは除いて、だが。


席と席が近いせいで彼らの会話は否応なしにぼくの耳に届く。そして彼らの興味の中心を占めるのはただ一つ――「誰がどの女子と『婚約』するか」。この前の『パーティー』はどうだった、廊下で出会った何年何組の誰々が好みだった、だれとデートに行ってどこまで許してきたのか――そんなことを男子全員に配られる全校女子生徒の名簿を広げながらぺちゃくちゃと喋っている。


この名簿には、在籍する未婚約の女子生徒全てのあらゆるデータ――家族構成、趣味、得意科目、成績、運動能力、果てはスリーサイズまで――が載っている。男子たちはこれを見て好みの女子を選び、また自分に声をかけてきた女子がどんな人間かを確認する。


会話の種が女子についてだけなのは彼らに限らず、1年生のころの男子もみんなこうだった。彼らは女子たちを「さあ、どれでもどうぞ」と目の前に並べられた料理のように扱い、文字通り誰がどれを「喰う」のかを心底楽しそうに語っているわけだ。そこでは女子たちはただの()()でしかない。ぼくはそんな彼らがどこかおかしいように思えるけど、彼らは彼らでやっぱりぼくのことを頭のおかしい人間として見ているから、どっちもどっちなんだろう。


そういうわけでぼくは彼らとは関わりが全くない。しいて言えば体育の授業でキャッチボールするとき、余り物が「あっ……、紫藤くん、俺と組んでくれない?」と声をかけてくるくらいのものだ。


けれどそんなぼくでも、彼らの言葉に無関心でいられなくなる瞬間はある。


「そういえば、この子ちょっと良さげ(美味しそう)じゃなかった? この、御原侑理って子」


その名を聞いた瞬間、びくり、と身体が反応してそちらに目が行ってしまう。彼女の名前を出したのは男子たちの輪の中心にいるリーダー格の男で、確か名前は星野と言ったはずだ。しっかりとワックスで決めた髪型と整った眉毛は、彼が垢抜けた男であることを物語っている。爽やかな人当たりの良さと悪くないルックスを持ち合わせているから、きっと女子は選び(喰い)放題なんだろう。そういえば初日の自己紹介で、オレはすでに17人の婚約者がいまーす、と自慢気に語っていたことをふと思い出す。


星野は取り巻きたちと侑理についての会話を続ける。


「あー、さっさと出てっちゃった子っしょ? もう『婚約』決まってるってことじゃねーの?」


「『婚約』してたらパーティーに出席はできない。『指輪』もなかったし、フリーってこと」


「たしかによく見ると、なかなかいいスタイルしてんじゃねぇか。バスト79か……胸は物足りねえが、まだ残ってるうちだと上物じゃねえの?」


「だな。こんなのが残ってるなんて、ラッキー! 俺なら第3夫人にはしちゃうね」


「おいおい、お前もう17人と『婚約』してるんだろ? 俺はまだ6人なんだから譲ってくれよぉ」


そんな会話が否応なしに耳に入ってくる。


ぼくはまだ弁当を食べ終わっていなかったが、ガタン、とわざと大きな音を立てるようにして立ち上がった。星野たちが一斉にこっちを向き、会話が一旦途切れる。


脇目も振らずに教室をまっすぐ出て行ったが、そのすぐ後には彼らがまた侑理についての会話を始めたのが聞こえてきた。それもげらげらと笑いながら。


もしかしたら、今度転校してくる男子たちは少しはこれまでと違って、「まとも」な奴らかもしれないーーそんなぼくのありえない期待はやっぱりありえないままで終わったのだった。

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