日暮夕陽‐6
ジャンル別ランキング7位になってました。自分でもびっくりしています。ありがとうございます。評価やブックマークしてくださったみなさんのおかげです。
(2/1 追記)「この病気は日本でのみ発生しているのか? そうであればおかしくないか?」という感想を見て確かにそうだなあと感じ、世界中で発生した事態だという風にあらすじと本文を書き替えました。
感想についてですが、個別に返信することはしない方針です。でも、ひとつひとつありがたく読ませていただいております。
「てゆーか、マジでありえなくない? そのシドー先輩とかいう人のせいで、実質男子一人減ってるってことじゃん! 10人しかいないのにさ! みんなもそう思うっしょ?」
と、美乃莉が実秋への強烈な不満を口にした。
しかし、薫から返ってきたのは美乃莉には予想外の答えだった。
「そう? あたしはいいと思うけどね。なんか謎めいてるし、どんな理由なのか気になるじゃん!」
薫は好奇心旺盛なその性格から、UFOなどのミステリーや未解決事件といった謎が大好きなのだ。イメージに似合わず、江戸川乱歩やコナン・ドイルが大のお気に入りであることを夕陽や舞花は知っている。
「えー……まいかは? ウザくない、このシドーって人?」
薫から思っていた同意を得られずに美乃莉が舞花に話を振ると、彼女は困ったような笑みで返した。
「私はこの人のことをどうとも言えないわ。婚約者がいる身で『親睦会』に参加したから」
「えっ?」
舞花に婚約者がいるという話は夕陽にとって寝耳に水だった。驚いている様子を見ると、薫や美乃莉も知らなかったらしい。舞花はそのまま続けた。
「私の家は少し古い家柄だから……親が婚約者を決めてしまっているの。この前の『親睦会』は普通の男子がどんな風なのか知りたくて。私に声をかけてきた男子の時間を無駄にしてしまったのだから、私も彼と同類だわ。それに、私と同じように事情があるのかもしれないしね」
なんでもないことのように舞花は話すが、夕陽にとっては自分で婚約者を選べないことも結構な衝撃だった。
「あの、舞花ちゃんはいいの? 親が決めた人と結婚させられるなんて」
「私は別に気にしていないわ、相手も悪い子ではないしね」
「そうなんだ、それならいいんだけど」
そこで薫が居心地悪そうな顔で切り出す。
「あー、言うタイミング逃してたんだけど、実はあたしも婚約済みなんだよね……」
「えっ、薫ちゃんも?」
舞花だけでなく薫まで婚約済みという言葉に対し、夕陽は混乱してしまう。薫は照れながら続けた。
「あたしは入学直前に婚約が決まったんだ。この高校を受験するとき、親のツテで祐介さんっていう家庭教師のお兄さんをつけてもらったんだけど……祐介さんを好きになっちゃって。合格発表の日に告白して、オッケーもらえたの! 元々あたしの親の知り合いだったから、この人なら大丈夫って親も許してくれて。秘密にしててゴメンね?」
「いいのよ、私も同じなのだし。にしても貴方の方から求婚するなんて、やるわね」
「本当にびっくりだよ。わたし、てっきり高校での『婚活』が全部だと思ってたけどそうじゃないんだね」
そう口にした夕陽に舞花が首を振って返す。
「私たちのようなケースはとても特殊だと思うわ。ほとんど全ての女子は高校で婚活して、『婚約』するのが普通だから」
「うん、夕陽みたいな方が普通だと思うよ。異母兄弟以外に男子の知り合いがいるってところが、まず珍しいと思う」
「そっか……」
それでもこれまで高校だけが唯一『婚約』にこぎつける場だと思っていた夕陽にとって、二人の婚約は予想だにしていないものだった。そこでひとつの疑問がふと湧いてくる。
「そういえば、薫ちゃんはなんで『親睦会』に参加したの?」
「あたしはまだ『婚約届』は出してなくて、祐介さんとの婚約も決定じゃないの。『薫には僕以外の男を見てから選んでほしい』って言われて、それで一応ね。あたしはもう祐介さん一筋なんだけどねー」
「へえー、そうなんだ。でも、『パーティー』は婚約済みの生徒はほんとは禁止だよね。ってことは……」
「まあ、仕方ないっしょ。うちと2人でがんばろ?」
美乃莉はそう言ってくれる。しかし、夕陽は薫と舞花がいれば『パーティー』も大丈夫だろうな、と不安と緊張をこれまで打ち消していたのだ。その2人がいない中で『婚活』しなければならないということを知り、それまで抑えていた不安が心を急速に支配していく。
それが顔に出ていたのを見たのだろう、舞花が微笑みながら夕陽の肩に手を置いて言う。
「大丈夫よ、夕陽。私はこれからの『パーティー』には参加するから。先生にバレなければ問題ないわ」
「えっ?」
「あっ、あたしもね! ひとりじゃ心細いでしょ? この前声かけてくれた男子に紹介したげるよ!」
「私もそうしようかしら。この前の男子には申し訳ないことをしたのだし」
優しく声をかけてくれる二人に、夕陽は心から感謝して言う。
「二人とも、ありがとう。ほっとしたよー。美乃莉ちゃん、『婚活』はわたしたち二人だけど、一緒にがんばろうね」
「…………」
「……美乃莉ちゃん?」
「んー、何でもない。そーだね。がんばろ?」
表情を無くして黙ってしまった美乃莉の様子が気になったものの、それ以上に舞花と薫が一緒にいてくれることによる安堵で夕陽の頭の中はいっぱいだった。これなら放課後の『パーティー』も大丈夫だろう、心からそう思った。
「それより次、体育だよ、体育! 早く食べて早く着替えよ!」
「うわっ、今日ランニングかあ……。やだなあ……」
「えー、走る気持ちよさが分からないなんて、勿体無いね。生きる楽しみの一つだよ!」
「薫はいつも大げさね……。ともかく、時間があまりないことは確かなのだし、早く食べてしまいましょう」
舞花のその言葉で、4人は弁当を食べ始めた。色鮮やかでおいしそうな夕陽の弁当についてあれこれ会話をしたりするうちに、昼休みはつつがなく過ぎていった。