日暮夕陽-4
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「パーティー」をはじめとした男女交流――平たく言えば出会いのためのイベントは、決まって毎週金曜日の放課後に開催される。
今日は入学後2回目の金曜日、つまり、「パーティー」の日だ。1週目の「親睦会」――これも「パーティー」ではあるが初顔合わせのため料理などがちょっとだけ豪華になる――を風邪で欠席した夕陽にとっては、これが最初の「婚約活動」=「婚活」になる。
夕陽の母親は朝からずっと気を揉んでおり、いつもはさっさと仕事に出かけてしまうくせに今日だけは娘の化粧や髪型について、「もう少しチークは濃い方がいい」とか、「ここに小さな跳ねっ毛があるから直してあげる」とか、あれこれ口を出してきた。もっとも、夕陽自身も失敗しないかどうか不安を感じていたので、母の気遣いをむしろありがたく感じていた。
午前の授業はあっという間に終わり、昼休みになる。柳原高校には学食もあるが、夕陽は料理好きなこともあって弁当組だ。鞄からクマのイラストがあしらわれた弁当袋を取り出し、友達のいる席へと向かった。
「おっ、今日のゆうゆ弁当はクマ柄だね。かわいい!」
夕陽を「ゆうゆ」というあだ名で呼ぶ方がいつも元気でスポーティーな陸上少女の夏野薫。夕陽とは同じ中学で3年間同じクラスだったため、すっかり気心の知れた仲だ。体を動かすことが大好きで、朝は誰よりも早く登校しグラウンドをひとっ走りしてクラスに戻ってくる。新学期最初の体育の体力測定では、男子に劣らない好成績を叩き出して教師をも驚愕させていた。運動が苦手な夕陽にはとても羨ましい。
「いったい何種類持ってるのよ。入学して2週間経つのに、まだ1回も同じ袋を見たことがないわ……」
「あはは、『これは!』って思ったものを見かけるとすぐ買っちゃうんだよね、わたし」
呆れと驚きの半々の反応を返したのが、言葉遣いはちょっとキツめだがなんだかんだ優しい桜井舞花だ。夕陽と薫と知り合ったのは中学2年生のとき、高校受験のための塾でのことだった。3人とも志望校がこの柳原高校で、そろって合格してからはますます仲良くなり、もう10年来の友達であるかのように夕陽も薫も感じている。帰国子女らしく英語に堪能で、所作もどことなく気品が感じられる。肩まで伸ばしたストレートの茶髪はいつ見ても整っていて、どうやったらその髪を維持できるのか教えてほしいと夕陽は思っている。
「ねえねえ、美乃莉もそう思うよね?」
「えっ? ……ああ、弁当袋ね。かわいーんじゃない?」
そしてもう一人、サンドイッチを口にしながら気のない返事をよこしたのが藤枝美乃莉だった。苗字の関係で夕陽と席が前後ろで美乃莉が夕陽に積極的に話しかけてきたことから付き合いが始まり、夕陽つながりで薫や舞花と知り合った、高校でできた友達だ。茶髪のボブカット、コーラルピンクのグロス、ギリギリまで詰められたスカート丈など、女子にとっての「カワイイ」を身に纏っている美乃莉は夕陽がこれまで接したことのないタイプだった。夕陽は彼女がクラスの中心の女子グループに入るものだと思っていたし、彼女自身もそういうタイプのクラスメイトとの方がウマが合っているように見えたのだが、美乃莉はこうして夕陽たちと一緒にいることを選んでいる。そのことを不思議に思っていても口に出したりはしていないが。
授業前、授業の合間の休み時間、昼休みなど、この4人はグループとなってずっと行動を共にしていた。この前の水曜日などは放課後にここから少し離れた大きな街に遊びに行ったりもした。
夕陽は席につくと、言おう言おうと朝から準備していた言葉を口にした。
「3人とも、今日の『パーティー』出るんだよね? わたし、先週休んだから……どんな感じなのか教えてくれない?」
「そっか、ゆうゆ先週はカゼだったもんね」
「そういえばゆうひ、今日化粧してるね。気合入ってる系?」
「う……。せっかくの機会だし、失敗したくなくて……」
照れる夕陽に対して、クスリと笑って舞花が言う。
「大丈夫、よく似合ってるわよ。それにそんなに気負う必要はないわ。男子の方から声をかけてくるから、それに受け答えすればいいだけ」
「えっ、そうなの? 女子の方が男子よりずっと多いから、わたしから行かなきゃいけないのかなー、って」
「私もそう思っていたのだけれど、男子の方が声をかけるのが普通みたい。女子から男子の方に行くことにすると、いっぺんに殺到して男子が相手しきれなくなるかららしいわ」
「そーだね。だから実際は女子同士でおしゃべりしてる時間の方が長いよー」
「へえ、そうなんだ……。全然知らなかったよ、わたし」
「だから準備ってゆーか、男子の『名簿』をちょいチェックしとけばオッケーだよ? ほら、入学式の日にもらったっしょ?」
「あ、それわたしまだ見てない。『パーティー』の日に見ればいいやって思って」
そこで気づく。今朝は身だしなみにばかり気が行っていて、完全に『名簿』の事を忘れていた。今もまだ自室のファイルボックスの中にあるはずだ。
そのことを話すと、薫が自分のものを見せてくれることになった。ゆうゆは仕方ないなあ、と笑いながら薫が鞄の中を探す間に、突然夕陽は文芸部室でのことを思い出し、あっ、と声をあげた。3人がその声に反応してこちらを向く。
「そういえばわたし、実はもう男の人と1対1でしゃべれたんだよね……。その人のことも載ってるよね?」
「ええっ!? 1対1で? ゆうゆ、大人しそうな顔してあたしより先に大人の階段登っちゃったの?」
「あら、夕陽ったらいつの間にそんなに成長して……。もう独り立ちする時期なのね」
「の、登ってないよっ! 舞花ちゃんもからかわないでよ!」
「ね、ね、その人の名前はなんてゆーの? うちはもう『親睦会』でだいたいの男子をチェック済みだから、名簿に載ってないこととかわかるよー」
からかってくる薫と舞花と、興味津々といった様子の美乃莉に押されながら、夕陽は答える。
「えーっと……、シドウ、そう、紫藤先輩、って人だよ。紫色の紫に佐藤のトウで、シドウ」
その名前を聞いた瞬間、それまでとは打って変わって3人が困ったような表情で顔を見合わせる。
その普通でない様子に対しどう反応すればいいか分からないまま、夕陽は訊ねた。
「あの……紫藤先輩がどうかしたの?」