パムは褒美を辞退して、フウロはようやく眠りにつく
『それはそうと、女王様』
賢者が女王に向きなおります。
『先ほど空が虹色に輝いたわけは? ここで何が起こったのでしょう?』
『そうだな。私も知りたい。「無事といえる状況ではなかった」という、その意味も」
そこで冬の女王は語りました。
気が付くと塔に身体を取り込まれていたこと。
身動きできずにいたところに、パムが来たこと。
フウロが、3ヶ月以上塔にいると、塔が女王自身を取り込もうとする仕組みだと、つきとめたこと。
自分を解放するため、パムが他の女王たちの国を訪れたこと――
『そうだったのか……』
全てを聞いて、王様はしゃがみこみ、女王の足元にいるパムを改めて眺めました。
『よくやった、パム。その小さな身体ではさぞ大変だったであろう』
『小さな英雄、ですね』
賢者もパムを覗き込みます。
「え、え、ええ……と……?」
褒められたパムはなんだかむず痒くなって、ひげをしきりに撫でつけました。
『陛下、確かお触れを出していましたね?』
『ああ。冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう、とな』
「ほ、うび?」
パムは、きょとん、と首を傾げました。
「パム、何か欲しいものはある?」
女王も尋ねます。
でも、パムは首を傾げたままです。
「……いらない」
しばらくして、パムは答えました。
「だって、女王様、もう、冬の国に戻られるんでしょう?」
「ええ」
「だったらいらない」
『おやおや。小さな英雄は欲がないな』
『そうですね』
「本当に?」
女王に念を押され、パムがもう一度考え込みます。
「……あ」
『何か思いついたか?』
「うん、あのね、僕じゃなくて、ナナにあげて」
「ええッ!?」
驚いたのはナナです。
その場で、飛び上がってしまいました。
「な、なんで!?」
「だって、ナナだけ何もないでしょ? 夏の国のネズミなのに協力してくれたナナには」
『ふむ、それもそうだな』
「それもそうね」
王と女王に言われて、ナナは、わたわたしてしまいました。
「で、で、でも………」
「ナナ」
女王様は、焦っているナナを優しくつまみあげて、そっと何か耳打ちしました。
「え……」
途端に、ナナがびっくりしたように目を丸くします。
「……できるんですか? そんなことが?」
「私には無理ですが、おそらく賢者殿になら」
『私、ですか?』
ガラスの向こうで賢者が首を傾げます。
『どのようなことでしょう?』
「あの………」
ナナは、女王の手のひらの上で、おそるおそる口を開きます。
「あの、私の身体を白くすること、できますか?」
「ええ!?」
びっくりしたのはパムです。
「なんで!? 白くたって、いいことないよ!?」
「……あの、ね、白かったら、パムと一緒に冬の国で暮らせるかなって………」
「え………」
パムはその場で固まってしまいました。
女王が、そんなパムの横に、そっとナナを下ろします。
「………だめ、かな?」
下を向いたまま尋ねるナナに、パムは、フルルルルッ! と、すごい勢いで首を横に振りました。
「そんなことない! でも……いいの?」
「……うん」
「本当に?」
「うん」
「……えっへへ……」
パムは、なんだか照れくさくなって、その場でくるくる回りました。
ナナは下を向いたままです。
王も賢者も女王も、優しい顔で、そんな二匹を見守っていました。
「なるほど」
冬の国の城の中。
パムから話を聞いたフウロは、そう言ってうなずきました。
目の前には、白いネズミが2匹並んでいます。
尻尾を互いに絡ませて、幸せそうに微笑みあっています。
「賢者様ってすごいよね、本当にナナを白くしちゃったんだよ!」
「見ればわかる」
「でね、塔の扉だけど、今までは、塔の中に女王様がいる時は、他の国の女王様の扉は開かなかったでしょう?」
「ああ」
「でもね、開くようになったんだ!」
「ほう?」
「賢者様が言うにはね、多分、僕たちが穴を開けたからじゃないかって」
「なるほど」
「聞いたの。直さなくていいのって。そしたらね、これでいいって。今度は何かあったら他の女王様たちが中に入って確かめることができるからって、賢者様も王様もそう言うんだ」
「そうか」
「だからね、そのままなの。今度からは、いつでも女王様たち、中へ入れるんだって。でもさ、そしたら、季節が混ざっちゃわないのかなあ?」
「かもな」
「あ、それでね、賢者様は、ナナを白くした後、旅に出るんだって!」
「聞いた」
「そしたら王様がね、旅から帰ったら話を聞かせてくれって言ってた!」
「そうか」
「でもさ、なんで旅なんてしたがるんだろうね?」
パムは首を傾げました。
「僕たちも、この国に来るまで旅をしたけどさ、僕、もう二度と旅なんてしたくないよ」
「奇遇だな」
フウロは欠伸をしながら答えました。
「私もだ」
「だよねえ? おうちにいるのが一番だよね?」
「同感だ」
答えるとフウロは、両目を閉じ、そのまま眠ってしまいました。
先には女王様の帰りを、後にはパムの帰りを待って、ずっと起きていたので、眠くて眠くて仕方なかったのです。
「……僕も、眠くなってきちゃった」
つられたのか、パムも大きな欠伸を一つします。
「ナナ、行こう。僕のうち、こっちだよ」
二匹の白ネズミは、フウロを起こさないよう、そっとその場を離れました。




