塔から空へ七色の光が煌めき、冬の女王が解放される
扉をくぐるなり、パムはひょいっとつまみあげられました。
「うわ!」
「あなた、塔から来たの? 冬の女王はどうしたの?」
かけられた声は女性のものでした。
おそるおそる視線をあげると、金色の髪に緑色の瞳の女性が、パムを覗き込んでおりました。
「あ……もしかして、春の女王様?」
「ええ、そうよ。あなた、塔から来たのよね? 冬の女王はどうしたの? 私、ずっと待っているのよ? なのに扉が開かないの。冬の女王が塔から出れば、この扉が開くはずなのに」
「ええと……」
パムが事情を説明すると春の女王は目を丸くしました。
「まあ……そんなことになっていたのね。それにしても、なぜ冬の女王は塔から出なかったのかしら……」
「それは僕にもわかりません。とにかく、冬の女王様をお助けしないと」
「ええ、ええ、その通りね。訳はそのあと、本人から聞けばいいのだわ」
春の女王は、すぐに水晶に自分の力を込めてくれました。
水晶は緑色に染まります。
春の若葉の色です。
「ありがとうございます!」
「後はお願いね。私はここで待っていて、扉が開いたら、すぐに塔に行きますから」
「はい! お願いします!」
パムはペコン、とお辞儀をすると、リュックを穴に押し込み、塔の中へと戻っていきました。
冬の女王様は、もう、膝から下が埋まっているだけでした。
でも、まだその瞳は閉ざされたままです。
パムは、スルスルっと円柱を昇り、最後の水晶を嵌めました。
夏の海の青。
秋の紅葉の赤。
春の若葉の緑。
青、赤、緑の三つの光は、見る見るうちに大きくなり、混ざりあい、円柱が七色に揺らめきます。
「うわあ…………」
「綺麗…………」
パムとナナは、それを茫然と見上げました。
同じ頃。
人々も、空を茫然と見上げていました。
なぜなら、塔から七色の光が空に向かってふわあっと広がって揺らめいていたからです。
「一体、何事だ!」
人の国の王様も、お城から七色に揺らめく空を見上げて叫びます。
ですが、答えられる人は誰もいません。
「王様、もしや、これは春が来る前触れでは?」
「…………だと、いいのだが」
家来の言葉に、王様は、低く唸りました。
「塔に行く」
「はっ!!」
控えていた家来がサッと敬礼をし、侍女が慌てて外套を差し出します。
王様は外套を羽織ると、大急ぎで部屋を出て行きました。
「う………ん………」
「あ、女王様!」
七色の光に目を奪われていたパムが、女王様の声に気が付き、近寄ります。
冬の女王は、円柱から解放され、床の上に倒れていました。
「女王様、大丈夫ですか!?」
「……パム?」
女王様が身を起こしながら訊ねます。
閉じられていた黒い瞳はしっかり開き、パムを見ています。
「はい! パムです!」
「パム、ありがとう。動けなかったけれど、でも、あなたが何をしてくれたかはわかっています」
「え……へへ。良かった。女王様が戻られて」
「それから……ナナ?」
「は、はい」
声をかけられて、ナナはびっくりしてその場で飛び上がりました。
「あなたも、ありがとう」
「は、い、いいえ、そんな、大したことしてません」
「そんなことはありません。本当にありがとう」
「も、勿体ない、お言葉です」
「あのあの、女王様!」
「なんですか?」
「どうして女王様は、3ヶ月経ったのに、塔から出なかったのですか?」
「…………それは」
言いかけた女王様は、ふと、何かに気付いたように顔をあげました。
「……ああ。どうやら王が来るようですね」
「「え?」」
「パム、ナナ。私は、王に話をしなければなりません。何故私が塔に籠ったのかを。ですから、ここで一緒に聞いていなさい」
冬の女王は、立ちあがると、今まで自分が埋まっていた円柱に手をあてます。
すると、その一部がガラスのように透き通り、やがてそこに、見たことのない部屋が映りました。
「女王様、これは?」
「どこの部屋ですか?」
「この塔の1階です」
「「………え?」」
パムとナナは顔を見合わせました。
「女王様、ここって、2階だったんですか?」
「ええ、そうです。2階が私たち季節の女王が籠る場所。そして1階が、人々が祈りを捧げる場所です」
「1階へは降りられないんですか?」
「ええ、階段はありません。人々は2階へは来られない。私たちは1階へは降りられない。でも、この円柱を通して、人々の祈りは私たちに届き、私たちの力は、円柱と塔を通じて人の国に届くのです」
「「へえ…………」」
感心して1階の風景を眺めるパムとナナ。
ガラスに映った部屋の奥に、扉が見えます。
塔の外へ通じる扉でしょうか。
その扉がバタン! と開かれ、外套を身にまとった偉そうな男の人が入ってきました。
「あれが王様?」
「ええ。あれが、人の国の王です」
王様は、まっすぐこちらにやってきます。
「あの、王様はこっちが見えてるんですか?」
「ええ。1階の円柱に、私たちの姿が映っています」
「声も?」
「聞こえています」
「うひゃあ!?」
それを聞いてパムは素っ頓狂な声をあげ、ナナはあわてて口を押さえました。
『冬の女王よ。ご無事か』
王の声が響きました。
円柱のすぐ前まで来ていました。
「聞こえています。人の国の王よ。私は無事です。……今は」
『今は?』
「さきほどまでは、とても無事といえる状況ではありませんでした」
『申し訳ないが、状況を説明していただけぬか』
「ええ、勿論です」
そうして冬の女王が話をしようとしたその時です。
王の背後の扉が開き、フードを目深にかぶった人物が中に入ってきました。




