パム、秋の国からお土産を持ち帰り、春の国へ向かう
「ただいま!」
ナナが春の扉に穴をあけ終わるのと同時に、パムが塔に戻ってきました。
リュックを押しこみ、自分が潜り抜けた後、大きな袋を引きずりながら。
「お帰りなさい、パム。上手くいったのね?」
「うん! それにほら!」
引きずってきた大きな袋を開けると、そこには沢山の果物や木の実、キノコなどが入っていました。
「うわあ………」
「あっちは秋の国だったんだ。で、これ、お土産。僕はあっちで、沢山食べたから……」
パムはちょっと申し訳なさそうに髭をこすりました。
「ごめんね、僕ばっかり満腹で。だからナナ、これ食べて」
ナナは思わず吹き出しました。
「謝ること、ないのに。お腹が空いているときにエサを見つけたら、食べるのは当たり前でしょ?」
ナナは笑いながら、すぐ目の前のブドウを一粒、手に取りました。
「こんなに持って帰ってくれて嬉しい。ありがとう。お腹ペコペコだったの」
カプリ、と一口かじります。その美味しいこと!
ナナは夢中になって次々食べ始めました。
ブドウ、栗、ぎんなん、しいたけ。
リンゴやナシなど大きなものは、小さく切ってありました。穴を通り抜けられるように、でしょう。
その横で、パムはリュックから水晶を取り出しました。
水晶は鮮やかな赤に染まっていました。
「綺麗……」
ナナも思わず、食べる手を止めて見惚れます。
「紅葉の赤、だって」
答えると、パムは前と同じようにスルスルと円柱をよじ登り、水晶を嵌めます。
夏色の水晶の横で、今嵌めた水晶の周りがほんのり赤くなりました。
「よし、残りは春……って、あ! 穴、開いてる! ナナ、ありがとう!!」
ナナはちょうどリンゴを頬張ったところで答えられませんでしたが、コクコクと頷き返しました。
「じゃ、行ってくるね!」
パムは上機嫌で残りの水晶をリュックに詰めます。
「あ、パム」
そんなパムに、こくり、とリンゴを飲み込んだナナが声をかけます。
「なあに?」
「あのね、これ、ちょっと多いかな。パムも食べない?」
「え? でも僕、秋の国で沢山食べたから……」
「でも私、こんなに食べきれないもん」
「……そう?」
パムはちょっと悩みました。
本当は、も少し食べたいな、って、思ってたんです。
「じゃ、ちょっとだけ」
パムはリュックを脇に置くと、転がっていた栗をカリカリかじり始めました。
「ねえ、パム」
「ん?」
「あのね、どうしてあのヤマネコさん……マヤおばさんは、パムに親切だったの?」
ナナは、ずっと気になっていたことを聞いてみました。
「ん……、それはね」
パムは、栗をコクンと飲み込んでから答えました。
「僕たちが、マヤおばさんの子供を助けたから」
「……え?」
ナナは目をぱちぱちさせました。
「助けた? ヤマネコを?」
「ヤマネコの子供を、ね」
「え………」
信じられません。
ネズミにとってヤマネコは天敵。
たとえ子供だって近づきたくありません。
それを助けたなんて。
「どうして?」
「あのね、すごく簡単に言うと……間違えたんだ」
パムは、何となくバツが悪そうに答えます。
「間違えた?」
「うん。あの時、その山猫の子、全身真っ白に見えて……。だから、助けたんだ。僕とフウロで」
「フウロ?」
「あ、ごめん。まだ知らなかったね。フウロっていうのは、フクロウだよ」
「フクロウ!」
ナナは飛び上がりました。フクロウだって、ネズミの天敵です。
「ええとね、フウロはフクロウだけど、白いんだ。僕と同じ」
「え……」
「フウロも僕も、元々夏の国にいたんだ。でも、夏の国で、白い身体は目立ちすぎて……」
「でしょうね……」
「あの時、僕はお腹が空いてフラフラで、フウロが近づいてくるって分かったけど、逃げられなかった」
「え……」
「そして捕まった」
「え!」
「食べられるって思った。でも、僕と同じ白い身体のフクロウだったから、まあいいかって思った」
「なんで!」
「だって、その時のフウロ、すごく痩せてた。白い身体の所為だ。僕と同じだって、思った」
「……」
「遅かれ早かれ誰かのエサになるなら、同じ白い身体のフクロウなら、いいかなって思った」
「そんな………」
「でも、フウロは僕を食べなかった。すごくお腹が空いてるのに、食べなかった」
「え? どうして?」
「僕もそう聞いた。そしたら『この夏の国で白い身体でいることが、どれだけ辛いか、知っているから』って」
「あ……」
「それから僕たち、色んなことを話したよ。お互い、すごくお腹が空いてたから、フウロはその辺の土を掘って出てきたミミズを食べながら、僕はしなびたキイチゴをかじりながら」
「しなびたキイチゴ………」
「美味しくはないよ? フウロもね、ミミズはマズイけど仕方ないって言ってた。そんなものしか取れなかったんだ、僕たち。で、お互い、白い身体で苦労していることを愚痴っていたら、小さな鳴き声が聞こえたんだ」
「山猫の子?」
「そう。マヤおばさんの子供。木から降りようとしてツルに足を引っ掛けて宙ぶらりんになっていた」
「その子が、白かったの?」
「うん。後でわかったけど、それは、浜辺の白い砂浜で遊んでいて、全身白くなってただけなんだけどね」
「あらら」
「でも、その時の僕たちにはわからなかった。同じ白い身体の子がいるって思って……二人で助けた」
「そうなんだ」
「まあ、そのおかげで、マヤおばさんに冬の国のことを教えてもらったし、さっきも助けてもらえたし。結果オーライ?」
パムはそう言うと、口元の食べかすを両手でふき取り、髭をこすると、傍らのリュックを背負いました。
「じゃ、僕行くね」
「ええ、気をつけて!」
パムは尻尾を一振りすると、春の扉を潜り抜けました。
ええ、今度も慌てて、穴の前でリュックをおろして、それを押しこんでから、でしたけどね。




