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パム、ナナに春の扉を任せ、一人で秋の国の扉を潜る

「本当に、本当にありがとう、マヤおばさん!」


 扉の前でマヤの背中から降りると、パムは改めてマヤに御礼を言いました。


「なあに。気にしなさんな。じゃ、あたしは行くから。しっかりやんなよ」


「はい!」


 パムの元気な返事にマヤは大きくうなずくと、踵を返してすたすたと歩き去りました。


「じゃ、行こうか」


 マヤの姿が見えなくなるまで見送ると、パムはナナに声をかけました。


「はい」


 パムは、そのまま穴をくぐろうとして、リュックがつっかえてしまうことに気が付きました。


 慌ててリュックを下ろすと、それを目の前において、押し込みながら穴を抜けます。


 ナナも、パムに続いて塔への扉をくぐります。

 ナナが小さくて良かったと、パムは思いました。


 この穴はパムが通るのにギリギリの大きさです。

 パムより大きなネズミだったら、きっとつっかえてしまったでしょう。


「寒ッ!」


 塔の中に入った途端、ナナはぶるっと身体を震わせました。


「うん、ここは冬だから」


「冬って、こんなに寒いのね……。でも、綺麗」


 夏の国しか知らないナナは、寒さに震えながらも、真っ白な塔の中を物珍しそうに見まわします。


「そうだね。僕も冬の国に来たばかりの頃は、夜空とか、雪とか、すごく綺麗でびっくりしたよ」


「……きゃあ!」


 ふいに、ナナがびっくりして尻尾をピン、と立てて後ずさりました。


「誰かいる!?」


「……ああ。冬の女王様だよ」


「え、あれが……?」


「うん。まずいな……首の下まで埋まっちゃってる」


 言いながらパムは、リュックの中から水晶を取り出しました。


 転がり出た水晶は、青い色でした。

 夏の女王様が力を込めてくれたから。


「綺麗な青ね」


 ナナも近づいて覗き込みます。


「夏の海の色だって」


 そう言ってパムは、水晶を咥えると、まだ埋まっていない女王様の髪をよじ登って円柱の上まで駆け上がりました。


 水晶のあった穴に元通りちゃんと嵌まるかどうか不安でしたが、水晶は、触れると同時に、穴にすうっと吸い込まれ、ピタリとそこに嵌まりました。


「あ」


 嵌まった途端、水晶の周りがほんのり青くなりました。

 こころなしか、塔の中の気温も少しだけ高くなったように思えます。


 パムは、するすると円柱を下りると、じっと見ていたナナのところに戻りました。


「さて、次は春と秋の扉を見つけないと……」


「あ、あれじゃない?」


 少しだけ夏の力が混ざったからでしょうか。

 塔の中の白さがほんの少し和らいで、扉の場所がわかりやすくなりました。


 冬の扉と夏の扉は、ちょうど反対側にありました。

 円柱を中心に、北側に冬の扉。南側に夏の扉。


 そして西と東にも、扉があるのが分かります。


「どっちかが春で、どっちかが秋だよね」


「とにかく、かじってみましょうよ」


 パムとナナは、先ずは西側の扉をかじることにしました。


 カリカリカリカリ。

  カリカリカリカリ。


 ナナの歯は確かに丈夫でした。

 パムに負けないスピードでかじっていきます。


 カリカリカリカリ。

  カリカリカリカリ。


 カリカリカリカリ。

  カリカリカリカリ。


 二匹でどれくらいかじったでしょう。

 ようやくパムが通れるくらいの穴が開いたとき、二匹はすっかりくたびれていました。


「「ふぅぅぅぅ………」」


 二匹同時にため息をついて、同時に顔を見合わせて笑います。


「へへ」


「開いたね」


「うん」


 パムは、トコトコと円柱に向かい、床に転がっている水晶を手に取りました。


 リュックに詰めて、ひょいと円柱を見たパムは


「あ!」


 びっくりして声をあげました。


「女王様、少しだけ戻ってる」


「え? あ、本当!」


 ナナも近づいて見上げます。


 首まで埋まっていた女王様ですが、今は胸までになっています。


「夏の力が込められた水晶を入れたおかげね」


「うん、そうだね!」


 パムはニッコリ笑うと、リュックを背負いました。


「じゃ、行ってくる!」


「うん。その間に、私、もう一つの扉、かじっておくね」


「ありがとう! でも無理しないでね!」


「大丈夫。パムも気をつけて!」


「うん!」


 大きく手を振ると、パムは今開けたばかりの扉の穴を潜り抜けようとして……。


 あわててリュックをおろし、先刻と同じように、先にリュックを押しこんでから扉を潜り抜けました。






 抜けた先は、秋の国でした。


「うわあ……。これが紅葉ってやつかあ………」


 山が赤や黄色に染まっています。


 扉を抜けたパムは、目の前にあった窓から見えるその景色に、しばらく見惚れてしまいました。


「っと、いけないいけない、秋の女王様にお会いしないと」


 とは言え、どこへ行ったらいいでしょう。

 扉のあった部屋には、人気ひとけが全くありません。


「あそこから何か見えるかな?」


 今まで眺めていた窓をよじ登り、下を覗き込みます。


「あ、いた」


 窓の下は、広場になっていました。

 そこには色々な果物や木の実が山のように置かれ、沢山の妖精や動物たちが楽しそうに飲み食いしていました。


「………お祭り? かな?」


 見ているうちに、パムのお腹がぐうっと大きな音を鳴らしました。


「ええと………あそこに行けば、ちょっとだけ食べ物もらえるかなあ……。ついでに女王様のいるところを教えてもらって………。じゃない、女王様のいるところを教えてもらうついでに、ちょっとだけ食べ物もらえないかなあ」


 パムは慌てて言い直しました。

 誰が聞いているわけでもないのですけどね。


 パムは置いたままにしておいたリュックを背負い、キョロキョロと辺りを見回しました。

 部屋のドアが少しだけ開いているのを見つけ、隙間から抜け出します。


 その先に階段を見つけました。


「あれかな?」


 パムは、広場に通じていると良いな、と思いながら、その階段を駆け下りていきました。

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