パム、夏の国で女王に会い、仲間を見つけて塔へ戻る
「ひぃ!?」
ようやく自分が通れるだけの穴を開け、扉を潜り抜けようとした途端、パムはザザッと後ずさりしました。
目の前に大きな大きな口があったのです。
「なになになに!?」
びくびくしながら、そおっと覗き込みます。
そこには、一匹の大きなヤマネコがいました。
こちらを見て、ニヤニヤと笑っています。
パムが出て来たら食べるつもりなのでしょうか。
「……あれ?」
しかしパムは、そのヤマネコを見ると、目を丸くして飛び出しました。
「もしかして、マヤおばさん?」
「……おやまあ。パムじゃないかえ」
ヤマネコの方も、パムを見て、目を丸くします。
「カリカリと音がしてたから、どこのネズミかと思ったら」
「お久しぶりです。その節はありがとうございました」
パムは、ペコリと頭を下げました。
「ってことは、無事、冬の国に着いたんだね?」
「はい。マヤおばさんが、冬の国へ行けばいいって、教えてくれたおかげです」
そうなんです。
このヤマネコが、フウロとパムに、白い身体なら冬の国なら目立たないと教えてくれたのです。
「礼を言われるようなことじゃない。旅が無事に終わったのは、あんたたちが頑張ったからだよ」
マヤは、髭をこすりながら片目をつぶりました。
「で、冬の国へ行ったあんたが、またどうして夏の国にいるんだね?」
「ええと、実はですね……」
パムは、事の次第を説明しました。
「おやおやおや。そんなことになってたのかい」
マヤはびっくりして目をぱちぱちさせました。
「というわけで、夏の女王様にお会いしたいのですが………」
「ああ、だったらあたしが連れてってやろう。背中に乗りな」
「いいんですか! ありがとうございます!」
パムは喜んでマヤの背中によじ登りました。
水晶を持っていたので、ちょっと手間取りましたが。
「いいかい? 行くよ!」
パムが背中の毛をしっかりにぎったことを確認すると、マヤは女王の間を目指して駆けだしました。
パムを送り届けたマヤは、その足で夏の国のネズミたちが住んでいるところに向かいました。
「うわあ!!!」
マヤの姿を見かけたネズミたちが逃げまどいます。
「まてまて。取って食おうっていうわけじゃないよ」
マヤが言いますが、ネズミたちは誰も聞いてません。
「おいおい……」
何とか話をしようとしますが、ネズミたちはわーわーぎゃーぎゃー右往左往するばかり。
「ええい! うるさいぃぃ!!!」
しびれを切らしたマヤが吼えると、ピタリ、とネズミたちの動きが止まりました。
「取って食うわけじゃない。話があるんだ。何度も言わせるんじゃないよ」
「は、は、話、というのは………?」
びくびく震えながら問いかけるネズミたちに、マヤは事の次第を語って聞かせました。
「……というわけなんだが、あんたたちも知ってる通り、あの扉はかなり硬い。パム一人で残り2枚の穴をあけるのは大変だ。だからさ、あんたたちも手伝ってやっておくれよ」
「…………」
ネズミたちは顔を見合わせます。
やがてその中の一匹が、おずおずと口を開きました。
「ええと、なんで僕たちがそんなことしないといけないでしょう?」
「………はあ?」
「だって、冬が続いて困ってるのは人の国でしょう?」
「女王がいなくて困ってるのは、冬の国でしょう?」
「「「なのに、なんで僕たち夏の国のネズミが手伝わないといけないんですか?」」」
「…………ッ!?」
ネズミたちの言葉に、マヤは絶句しました。
「……そうか、そうだった。忘れてたよ」
ややあって、吐き捨てるように言い放ちます。
「白いというだけでパムをバカにして、餌を分けてやることもせず、パムが失敗するのを、ただ嘲笑う。あんたたちはそういう奴らだった。声をかけたあたしがバカだったよ! 失せな!」
マヤの吼え声に、ネズミたちは全員、一目散に逃げていきました。
……いえ、全員ではありませんでした。
残っていました。
1匹だけ。
小さなネズミが。
「なんだい、腰でも抜けたかい?」
鼻で笑うマヤに、ネズミはプルプルと頭を振ります。
「あの、ヤマネコさん」
「なんだい?」
「私はみてのとおり、体が小さいです。動きがとろくて、滅多にエサもとれません」
「ふぅん?」
「体力もないです。メスだからっていうのもありますけど、すぐ疲れちゃいます」
「そりゃ、単にエサを十分とってないからじゃないのかい?」
「そうかもしれません。でも、歯だけは丈夫です」
「へえ?」
「だから、その、扉をかじる手伝いなら、できると思うんです」
「ふ……ふふ………」
「あの、ヤマネコさん?」
「あっはは! あれだけいて話が分かるのが小娘一匹だけとはね!」
「あの……」
「ああ、悪い悪い。歓迎するよ。ぜひ、パムを手伝ってやっておくれ」
「はい、ヤマネコさん!」
「ヤマネコさんはよしとくれ。あたしはマヤっていうんだ。パムはマヤおばさんって呼んでるよ。あんたの名は?」
「ナナって言います。七人兄弟の末っ子です」
「安易な名前だねえ。あんたの所為じゃないけどさ。よし、ナナ、背中に乗りな」
「え……」
「大丈夫。さっきもパムを乗せて女王のところに連れてったんだ」
「は、はい……」
ナナは、おっかなびっくり、おどおどしながらマヤの背中によじ登ります。
「ふ、ふふ……あんた、確かに運動は苦手そうだね」
「あ、あ、すみません」
「いいさ。ゆっくり登りな」
「はい、ありがとうございます」
ナナはふうふう言いながら、どうにかマヤの背中によじ登りました。
「よし、じゃあ、落されないようにしっかりつかまってなよ」
「は、はい!」
ナナが、どうにか毛を握りしめたことを確認すると、マヤは急いで――けれど、ナナのことを考えて少しだけゆっくりと――女王の間に向かって駆けていきました。
「あ、マヤおばさん!」
女王の間の前に、パムがいました。
背中にリュックを背負っています。
「首尾よくいったようだね。そのリュックは?」
「夏の女王様にいただきました! 水晶を持ち運ぶのにこの方がいいだろうって!」
「そうかいそうかい」
満足げに頷くマヤの首の横から、ナナが恐る恐る顔を出します。
「あれ? その子は誰ですか?」
「ああ、この娘っ子はナナ。あんたの手伝いをしてくれるそうだ」
「……え?」
「この後、春と秋の扉をかじるんだろう?」
「え、そうですけど、え、本当に!? 手伝ってくれるの!?」
「は、はい……」
ナナは小声でうなずきます。
「やった! ありがとう!」
パムは飛び上がって喜びました。
「ナナっていうんだね! 僕はパム! あと2枚も穴を開けるのかって、正直うんざりしてたんだ! 本当にありがとう!」
「え、ええっと、あの、あんまり役に立たないかも、しれないけど………」
「そんなことないって! 一人よりずっといい! 嬉しいよ!」
喜んで跳ねまわるパムに、マヤが苦笑しながら声をかけます。
「さあさ、あんまり時間がないんだろう? 扉まで送ってやるから背中に乗りな」
「はい!」
パムは、するするっとマヤの背中によじ登り、ナナの隣に腰を下ろすと、毛をしっかりつかみました。
「準備オッケーです! マヤおばさん!」
「よし、じゃ、とばすよ! パム、あんたナナを支えてあげなよ!」
「はい!」
パムが答えるのと、マヤが全力で駆け出すのは、ほぼ同時でした。




