フウロは調べる パムは文句を言いながらも行動する
パムの話を聞いたフウロは、書庫に籠りました。
フラフラになりながらフウロが出てきたのは、それから1週間経った後でした。
「フウロ、大丈夫?」
「ああ」
答えるとフウロは、パムが用意しておいた水入れから水をごくごく飲みました。
「それで、何か分かった?」
「水晶」
「へ?」
「塔の中に三つの水晶があるらしい」
パムは、塔の中へ入った時のことを思い出しました。
「女王様が埋まってた円柱に、真っ白な宝石があった気がする。もしかしてそれ?」
「おそらく」
「その水晶がどうしたの?」
「その水晶が女王の力を吸い取り、塔の中を廻らせる。塔はその力で、人の世に季節を廻らせる」
「へえ……」
「今、水晶は、冬の力に満ちている」
「だろうねぇ。そうか、冬の力に満ちてたから白かったのか」
「おそらく」
「春とか夏は違う色になる?」
「おそらく」
「で?」
「本来、女王が塔にいるのは3ヶ月。全ての水晶に力が満ちるのも3ヶ月」
「えーと、つまり、1つの水晶に力が一杯になるのに1月かかるってこと? だから3つの水晶全てに力が満ちるのにかかる時間が3ヶ月?」
「そうだ」
「で、3ヶ月ごとに交代だから、水晶はまた、違う色に染まっていくんだね」
「そうだ。そしてもし、3ヶ月以上塔に留まると、強くなりすぎた塔の力が暴走する」
「………へ?」
「女王の力だけじゃなく、女王自身を取り込もうとするんだ」
「あ……だから埋まってたの!?」
パムは冬の女王の姿を思い出します。
背中と、腰から下が円柱の中に埋まったまま、ピクリとも動かなかった姿を。
「どうすれば女王様は助かるの?」
「塔の中の冬の力を弱めれば女王様は解放される」
「冬の力を弱める? どうやって?」
「別の力を入れる」
「別の力?」
「春、夏、秋」
「他の女王様の力ってこと?」
「ああ」
「でも、塔の中に他の女王様たちは入れないよ?」
「だから水晶を持ちだす」
「水晶を?」
「ああ」
「誰が?」
「パム」
「………………ええっ!」
フウロの言葉に、パムはびっくりして飛び上がりました。
「むりむりむりむり!」
「他にできる者はいない」
「え………」
「他に塔に入れる者がいない」
「う…………」
「パム」
「…………」
「パム」
「…………ああ、もう! わかったよ! わかりましたよ! やればいいんでしょ! もう一度塔に行って、水晶を見つけて、それを持ってくればいいんだね?」
「少し、違う」
「へ?」
「見つけた水晶を、他の女王のところに持っていってほしい」
「ええ! 無理だよ! 遠すぎる!」
「塔の中に、それぞれの国に通じる扉がある」
「う、それってつまり……同じように扉をかじれってこと?」
「ああ」
「春、夏、秋で3枚あるよね?」
「ああ」
「簡単に言うなよぉ………」
「他にできる者はいない」
「……………歯、折れたらどうしよう………」
「頼む」
フウロに頭を下げられ、パムは大きなため息をつきました。
「まあ……やってみるだけやってみるよ」
そうしてパムは、尻尾を引きずりながら、再び塔の中へ入っていきました。
「さて、先ずは水晶か………」
前に来た時よりも一層寒くなった気がする塔の中を、パムは震えながら進んでいきます。
「あ、ここだ」
円柱に埋まったままの女王は、相変わらずピクリとも動きません。
「前より、埋まってる?」
前は腰から下だったのに、今は胸から下が埋まっています。
「う……あんまり時間がない感じ?」
プルプルと頭を振ると、パムは女王の頭上を確認します。
そこには確かに、水晶が3つ、嵌まっていました。
「先ずはこいつを取らないと。女王様、ごめんなさい」
パムはペコリと頭を下げると、女王様の髪や腕、肩を伝って円柱を昇り、瞬く間に水晶にたどり着きました。
水晶の周りをかじります。
カリカリカリ。
ポトン。
水晶が一つ、床に転がりました。
休む間もなく、パムは次の水晶へ。
カリカリカリ。
ポトン。
水晶がまた一つ、床に転がりました。
「ふう」
小さくため息をつくと、パムは最後の水晶に取り掛かります。
カリカリカリ。
ポトン。
とうとう、三つの水晶が全て、床にコロンと転がりました。
パムはするするっと円柱を下りると、三つの水晶を前に、ちょっと首を傾げました。
「あとは扉だけど……。全部真っ白でどこが扉だかわかんないや」
塔の中は、天井も壁も床も真っ白で、目が痛くなりそうです。
「どこにあるのかなあ………」
鼻をクンクン鳴らしながら、円柱の周りをぐるりと歩いたその時です。
ふっと温かな風がパムの鼻先を掠めました。
「………?」
風が来た方をよくよく見ると、壁にうっすら切れ目が入っているのが分かりました。
「これかな………?」
近づいて更にじっと見るうちに、床のすぐ上の細い隙間から、熱い風が吹き込んできていることが分かりました。
その熱い風が、塔の中に入るなり冷やされ、『温かい風』になったようです。
「壁に見えるけど、きっとここが扉だ。でもって、この向こうは夏の国……かな?」
パムは、ほんの少し、鼻先に皺を寄せました。
夏の国には、あまりいい思い出がないのです。
真っ白に産まれて、仲間はずれにされ、エサを取れずにいつもお腹を空かしていた。
そんな思い出しかないのです。
でも、ためらっている場合ではありません。
ずっと塔の中にいたせいで、すっかり身体が冷えてしまっているのです。
いくら毛皮を身にまとっていても、あまり手間取ると寒さで動けなくなってしまうかもしれません。
それよりなにより、女王様が頭の先まで埋まってしまうかもしれません。
パムは、急いで扉をかじり始めました。




