白フクロウのフウロ、白ネズミのパムを塔へ行かせる
冬の国。
女王が「塔」に行っている間、代わりに仕事をするのは宰相のフウロの役割です。
フウロは白フクロウです。
産まれは夏の国ですが、何故か仲間のうちで自分だけが白かったため、上手く狩りができませんでした。
夏の国で白い羽なんて、目立って仕方ありませんからね。
それならばと冬の国へやってきたのですが、ひょんなことから女王と仲良くなり、お話相手となりました。
お話相手はそのうち相談相手になり、やがて冬の国の宰相を任されるようになったのです。
そのフウロは今、一つの扉をじっと見つめています。
この扉は「塔」に通じる扉です。
ですが、この扉を開けることができるのは女王だけです。
鍵がかかっているわけではないのですが、何故か女王以外には開けられないのです。
もっと詳しくいうと、「塔」の中に他の女王がいる時は、他の季節の女王の扉は開きません。
だって、もし二人の女王が塔に入ったら、二つの季節が混ざってしまいますからね。
だから。
冬の女王がまだ「塔」の中にいる限り、春の女王は中へ入ることができないのです。
ここ数日、フウロは、扉を眺めながら、じっと首を傾げていました。
ですが、今日は少し違います。
扉が開かないことを確認すると、フウロは羽をゆっくり広げ、どこかへと飛んでいきました。
「パム」
フウロは、城のとある部屋の片隅に舞い降り、壁に向かって話しかけました。
すると壁の向こうから、カサコソと小さな音が響き、壁の穴から、ひょこっと小さな鼻が現れました。
「フウロ? 何か用?」
現れたのは、小さな白いネズミでした。
このネズミも、夏の国の生まれです。
でも、フウロ同様、白く生まれついてしまい、冬の国へ逃げてきたのです。
フウロと一緒に。
捕食者と被捕食者が、道連れとなって冬の国に着くまでの顛末をお話するのは、今はやめておきましょう。ただ、一羽と一匹は、現在友人である、ということを語るだけにしておきます。
「女王様がまだ戻られない」
フウロの言葉に、パムは鼻に皺を寄せて唸りました。
「長すぎるね」
「ああ、長すぎる」
「『塔』は女王様の力を吸いとって季節を廻らせてるんだよね?」
「ああ」
「『塔』にずっといるってことは、力をずっと吸われてるってことだよね?」
「ああ」
「……まずくない?」
「まずい」
「…………………」
「…………………」
ややあって、はあっとパムはため息をつきました。
「無口なのは知ってるけどさあ、僕にして欲しいことがあるならちゃんと言ってよ」
「かじって欲しい」
「何を?」
「扉」
「……ああ、わかった。『塔』に続く扉をかじって、穴をあけて、そこから『塔』に行って様子を見て来いって言うんだね?」
「ああ」
「だからさあ~~~~。もう少し説明することを覚えてよ、もう…………」
ブツブツ文句を言いながらも、パムは穴から出てきました。
二、三度ヒゲをしごくと、扉のある部屋に向かって駆けだします。
フウロも羽をゆっくり広げてその後を追いかけました。
「歯が折れるかと思った……」
ようやくネズミ一匹通れるだけの穴を開けたパムは、盛大にため息をつきました。
扉は思ったよりも硬かったようです。
そんなパムの前に、フウロがみかんを一つ置きました。
「お、サンキュ」
パムは嬉々としてみかんを平らげると、満足げに大きなゲップを一つしました。
「じゃ、行ってくるよ」
「頼む」
尻尾を二、三度振ると、パムは穴をくぐっていきました。
フウロは、それを見送ってもなお、じっと穴の前に立っていました。
「ふわ~~、寒ッ。冬の国より寒くない? ここ」
塔の中へ入ったパムは、ぶるりと身体を震わせました。
「おまけに、どこもかしこも真っ白だ」
パムは、鼻をクンクン鳴らしながら、塔の中を歩いていきます。
「女王様~~~~~。どこですか~~~~~~」
歩きながら呼びかけますが、答えはありません。
「女王様~~~~~~。ックシュン!」
時折くしゃみをしながら進むうち、大広間らしきところにたどり着きました。
「えーと、ここが塔の真ん中、かな?」
ヒゲをピクピクさせながら、パムは辺りをキョロキョロ見回します。
広間はガランとしていて何もありません。
その中央には大きな円柱がありました。
円柱にはキラキラ光る真っ白な宝石がはめ込まれ、その下には…………
「…………え、え、ええッ!!!」
パムはびっくりして駆け寄りました。
宝石の下に、長い銀色の髪が見えたのです。
「じょ、女王様!?」
それは冬の女王の髪でした。
「う、うそ……女王様、柱に埋まっちゃってるよ……」
円柱を見上げて、パムは茫然と呟きました。
その通りでした。
女王の背中と、腰から下が円柱の中に埋まっていました。
「女王様! 女王様!」
パムが呼びかけますが、女王の瞳は固く閉ざれたままピクリとも動きません。
「ど、ど、ど、どうしよう…………」
パムはどうしていいかわからず、円柱の周りを意味もなくグルグルと回っていましたが、ふいにピタッと止まりました。
「……どうすればいいのか、フウロに聞こう!」
解決策を丸投げにするため、パムは元来た道を急いで駆け戻りました。




